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コメディ連作【パン屋のバイトのヤマノさん】

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街のパン屋さんでバイトをするヤマノさんと店長の会話を中心に展開する素朴なコメディ。不定期更新。
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コメディ小説「新作は計画的に」1400字

コメディ小説「新作は計画的に」1400字

【当店新作!懐かしのシベリア!】

「店長、シベリアってパンの名前ですか?」

 何かも知らずに言われた通りにPOPを書いていた私は、アホみたいな質問を投げた。「バイト募集」の貼り紙以来、商品の脇に置くPOPも私の担当になっていた。

「パンっていうよりスイーツね。昔はパン屋さんでもよく売ってたみたい」

「店長も売ってたの知らないんですか?」

「あんまり馴染みはなかったな。大正とかそのぐらいの

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コメディ小説「年末の足音」1000字

コメディ小説「年末の足音」1000字

「冬になったら忙しくなるわ」

 背丈ほどのクリスマスツリーを組み立てながら店長がつぶやいた。大手チェーンはハロウィーンの翌日から店をクリスマス仕様に付け替えるが、うちのパン屋にそんな体力はない。

「やっぱりクリスマスは書き入れ時ですか?」

 11月も20日になろうかというこの時期に「Boulangerie Joyeuse(ブーランジェリー ジュワユーズ)」ではバイトに手作りのクリスマス飾りを

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コメディ小説「パン屋さんのハロウィーン」1500字

コメディ小説「パン屋さんのハロウィーン」1500字

このお話の前章はこちらのリンクから🔽

「みんな!今日は張り切って行くよー!」

 いつにも増して店長が気合の入った号令をかけた。そうか今日はハロウィーン当日だ。この日のために私は【バイト募集】の貼り紙を書いたんだ。おかげでたくさんの新しい仲間が加わった。振り返ればあの羞恥心も懐かしい…。いや、いまだに恨めしい。

「えー、あの貼り紙、ヤマノさんが書いたんですか?あたしアレ見て応募したんですよ!

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コメディ小説「バイト募集」1200字

コメディ小説「バイト募集」1200字

 筆ペンを持つ手が震えている。A3の紙はあと一枚。これ以上失敗するわけにはいかない。軽い気持ちで引き受けたわけではない。何度も断ろうとした。でも一度引き受けたからには、やり遂げなければならない——

 出勤時間にバイトが全員集められた。そこで店長から通達があった。ハロウィーンのキャンペーン開始に向けて、スタッフを強化したい。シフトを追加できる人は申し出てほしいという。さらにこれからバイトの人員を増

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