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初 冬

ここでは氷雨がひとしきり
むこうの山には陽が照っていた
僕はふるびた汽車の窓辺に
真昼の寂寥せきりょうにさいなまれていた

疲れた物語に捨てられていく言葉の
うず高い埃はまぎれようもなかった
それが渦巻き 巻き上がってはためらい
しおしお崩れてうずくまるのも見えた

氷雨はつづいた 別れのとばりと
掴んだものは素早く身をかわして
こわばった田畑が 満ち足りぬ海が
ひときわ呪いの色で光った

真昼は無かった 陽は見えなかった
時折の持つ気まぐれではなく
どこかむなしいいのちのトンネルの奥を
汽車は僕よりも喘ぎながら進んでいった

     詩集『浮燈台』(1951年*書肆ユリイカ)
     詩集『海がわたしをつつむ時』(1971年*鳳鳴出版)

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