「アクション」から「まち」を設計する。建築から考えるまちの課題解決。勝亦丸山建築計画 丸山 裕貴 氏【アカデミーハウス特別インタビュー】
勝亦丸山建築計画とは
私、丸山と勝亦と2名を中心とした静岡と東京を拠点に活動する建築家チームです。建築設計というと、受注して建物を作っていく、いわゆるクライアントワークのスタイルをイメージされると思いますが、僕らは建物の建築設計はもちろん、時には建物を建てる前の計画から、建物ができた後の運営まで行っています。
計画の段階でプロジェクトを進めていくための地元企業を巻き込んだチームをつくったり、建物が出来上がった後も運営や、実際にその運営した後の空間を見ながらアドバイスをすることもあります。建物ができる前から後まで、まち全体を設計していく。そういうところが特徴としては大きいと思っています。
まちを知るためにまず「やってみる」
まちを知るためのリサーチでは、事前に数値的なデータを調べることももちろんですが、それと同時にトライアルすることで生の情報を得ることも大切にしています。
東京は人口が多いので、建物の立地や内容でどんな人がどれくらい来るかなど市場調査が有効ですが、地方だとなかなかそうはいきません。情報が少ない中でいきなりお金借りてお店建てるって怖いじゃないですか。そういう時にまずは小さく始めてみて、実際の反応をみてから、こうしよう、ああしようと、やり方を検討したり、ダメだったら諦めたり。市場調査の市場がない地方だからこそ、まずやってみて重要な情報を得ることが必要だと思っています。
ちゃんと試して、ちゃんと失敗をしやすい境づくりのために
そんなトライアルしやすい環境づくりのためにいろいろな取り組みをしています。
ひとつは、Pleacemaking Kitと呼ばれるプロダクトです。このベンチもそうですが紙管を板でサンドして、ベルトで結ぶだけで作れるようになっていて、ビスも何も使ってないので設置も撤去もしやすくなっています。まず事業をやってみるとなった際に、借り物のインテリアで空間を作ることも多いですが。そうするとブランドの雰囲気とうまく結びつかないことがあります。でもこのキットがあると、とりあえず置くだけで空間が統一された雰囲気になりますし、ちゃんと一旦お店を始めることができるんです。
また、「for now」という企画も行っています。
すごくシンプルに言うと、空きビルを半年間、僕たちが無料で借りて、それを丸々半年間事業者側に無料で貸すという企画です。まずは実際にそこでトライアルしてみて、その後、実際に事業を始める時にはオーナーさんと事業さんとをマッチングしていきます。
ちゃんと試して、ちゃんと失敗をしやすい場所や環境を作る。このトライアンドエラーこそがとても重要なリサーチなっていきます。
大切なのは課題のスケールを間違わないこと
課題と一言で言ってもそれが都市の単位で抱えているものなのか、その建物単位でのものなのか、これだけでも課題のスケールが大きく違います。
大事なのは、大きい課題を意識しつつ、手前の課題もちゃんと解決していくこと。
例えば、日本の空き物件問題を解決したい!という人よりも、通りにある空き物件を活用したい!という人に対しての方が地元の方が共感しやすく、応援しやすいですよね。大きな課題へいきなりとりかかるのではなく、そこを射程に入れながら目の前のものにどうアプローチしていくかを意識的に考えるようにしています。そうしていると「じゃあこの物件でなにかやってみたら?」と地域にキーパーソンと具体に話が進んでいくこともあります。最初から大きな課題だけを掲げていると現実味がなく見えてしまいますが、目の前の具体の課題を解決していく中で、徐々に大きな課題にリンクしていくことも多いものです。
良いものをつくるためにアクションを起こす
どのテナントに入ってほしいか。どんな建物の構成にするか。どんなコンセプトにしようか、建物ひとつにも考えることは山ほどあります。そんな中で大切にしているのは、多方面から色んな意見がもらえるようなアクションをこちらから起こすこと。
スペース所有者さんと議論したり、いろんな事例を見に行ってディスカッションしたりすることももちろんですが、時には自らイベントの開催をすることもあります。
勝亦が静岡の富士に戻ったばかりのころ、「商店街占拠」というイベントを開催しました。そこで最初にいろんなプレイヤーと共に実際に行動を起こしたことが今でも財産になっています。今思えば、何かをやるための土壌がこれによってできた感覚があります。賛同を得るにも資料などで説明するだけではなくて、そこで何か「こと」が起こっているのをまちの人に見せていくのも重要だと思います。
自分たちでプロジェクトを作っていって、そこにまちの人たちを巻き込んでいく。そうしていくうちにどんどん色々やれることが増えていきました。最近では地元のまちづくり会社に出資し、新しくホテル事業を始めるところです。
地方でやることのいいことは目立ちやすいこと。逆に嫌われやすいということもありますが(笑)。ただ、そこで信念をもってやっていると誰か仲間になってくれる人が現れるものです。
中期的な目標達成のために必要な「バランス」
一つ建物を建てて運営するにしてもその「バランス」は大切にしています。
例えば僕らの事務所のある「sango」というビルは1階に店舗が入っていますが、お昼はコーヒーショップ、夜はシーシャバーと時間帯に分けて2つの事業者さんに入ってもらっています。貸す側としては、昼夜分けず、大きなところに1つに入ってもらう方が割もいいのですが(笑)。昼夜分けることで、それぞれの家賃を安くすれば、いろんなお店が入れるようになりますよね。そうすると、昼間会社に勤めていて、夜はお店をやってみる方がいたり、その中で、まちの人と仲良くなってくれたりするわけです。
大きなお金をかけて、建物を改修して一つの業態に入ってもらうより、全体のリノベーション費用を安くして、安く貸して、なにか挑戦してみたい方が入った方が、まちが盛り上がるよねとか。その事業計画をどうするか。建物にどれぐらいお金かけるか。それによってどんな空間にするかというバランスをちゃんと気を付けています。
すぐに儲けは出ないし、一見プライスレスな部分だけれど、ゆくゆくはそれがプライスになるよう設計することが大事だと思っています。
目標達成に必要なのは個人の人格と組織の人格
自分が本当に将来どうしたいのか、なんとなくでも射程として持っておくべきだと思います。例えば「漫画を描きたい」という目標に対しても今っていろいろなアウトプットの形がありますよね。全国紙の紙面に週刊で連載したい人もいれば、SNSに四コマ漫画をアップしてバズりたい人もいる。でもこの目標設定が異なると、必要な努力の方向も全然違ってきます。
目標に対して自分はどう関わっていきたいのか、ここを定めるとストレスも減っていくと思います。
僕らのチームも同じ目標を持っていても勝亦と僕とでは役割が違います。
僕は設計は得意だけれど、地元の人とコミュニケーション取りながら企画考えたりするのは、あまり向いてないと思っています。でも組織として勝亦がその役を担ってくれていて、地元の生の情報を吸収しながら、建築の方に集中することができています。
1人でできることって本当に限られてしまう。組織人格と個人人格とは別々であり、チームだからこそ、チャンスも広がるし、できることも増えていく。チーム作ればどうにでもなる! と思っています。
どうしても、1人でやれることは限られてしまいます。いろんな人を巻き込んで仲間を増やしていくことが課題解決の鍵かもしれません。
その課題を解決しなきゃというのを自分の中だけで終わらせるのではなく、どう人と繋げていくかっていう視点を持って、1人じゃできないことをやっていきたいですね。
丸山さんは次世代のリーダーを育てるためのシェアハウス「アカデミーハウス」に向けてご講演をいただく予定です。
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