飛行機の本#8禁じられた約束(ロバート・ウェストール)
読み始めから「ぼく」の初恋相手のヴァレリーには、死の予感がただよっている。荒涼としたタインマスの墓地が舞台になる。宮崎駿さんが、「タインマスへの旅」で描いていた風景が浮かんでくる。
ロバート・ウェストールの本を読んだあと次々と別の本を読んでみたくなる。「猫の帰還」に続いてこの「禁じられた約束」を読んでしまった。
時代背景はほぼ同じ、第二次世界大戦がまさに始まろうとしてる重苦しい時代。コロナ禍の今の時代と似ているかもしれない。
あらすじを書くつもりはないが、ヴァレリーの死をめぐる物語なのでご了承を。時代の切迫感、閉塞感、そしてヴァレリーの死、全体のトーンはあくまで暗い。しかし、そんな中での爽涼感を感じさせる2人の初恋の顛末、いつものロバート・ウゥストールの手に乗せられてしまう。しかし淡い初恋物語で終わらない・・・、後半はまったく別の要素が入ってくる。これ以上は書けない。
それにしてもヴァレリーは魅力的だ。戦争や飛行機に冒険しか感じないでワクワクしているほんとにガキンチョの「ぼく」に比べて、ヴァレリーの言動にはドキドキするような賢さを感じる。いよいよ戦争がはじまり、「ぼく」が友人たちと防空壕を掘ったり土嚢を詰めるボランティアなどの「戦時活動」をしていて忙しく、久しぶりにヴァレリーの家を訪ねた時の皮肉の一言、「それで、もう戦争には勝ったの?」。少年たちが、戦争が始まったことに浮足だって騒いでいることをお見通しなのだ。
戦争がはじまったときの描写がコロナ禍がはじまったときの世界と重なった。「もちろん、学校は当分のあいだ休みになった。空襲があった場合、避難する防空壕がないからだ。映画館も、同じ理由ですべて閉鎖された。これじゃ、戦争のことを考える以外はない。ぼくらは自転車に乗って、よく晴れた空の下、一日じゅう町を走り回った。」
登場する飛行機は、スピットファイア、ドルニエ、ハインケル、メッサーシュミット110、ハリケーン。特に後半にメッサーシュミット110とハリケーンの空中戦が描かれる。物語の終末へ導く重要なシーンとなる。
メッサーシュミットBf110
ドイツのメッサーシュミット社で開発された第二次世界大戦時の双発レシプロ戦闘機。戦闘機は軍用機の花形で大概は1人乗りの小型機。エンジンを2つ付けると早くなるし、航続距離も伸びるはずと運用者側は考える。そこで、世界的に双発エンジンも戦闘機がたくさん作れたが、ほぼみな失敗した。遅い、空力性能が悪い、操作性が悪いなど。このBf110は、そのような中で成功した数少ない飛行機。軍からの要求を無視して設計された。名機となったBf109の兄弟機のように作られ、戦闘機の性能を落とさなかった。第二次世界大戦の始まった頃(この本の時代)から大戦後期まで万能機として使われた。バトル・オブ・ブリテンでは、爆撃機を死守せよという命令で、爆撃機から離れて戦えずその性能を生かせなかった。Bf110を守るためにBf109を付けるなどという変な命令まで出された。
ホーカー・ハリケーン
イギリスのホーカー・エアクラフト社によって設計された第二次世界大戦時のレシプロ単発・単座戦闘機。バトル・オブ・ブリテンで、スピットファイアーとともにドイツ軍機と戦い、イギリスを占領される危機から救った。当時、無敵だったドイツ空軍がイギリス上空にやってくる。それを迎え撃ったのがスピット・ファイヤーとホーカー・ハリケーン。イギリス国民は、上空で繰り広げられる空の戦いを目の当たりにしていた。国を救った飛行機としてスピット・ファイヤーと共に称される。スピードレーサーから転じてきた好男子のスピットファイヤーに比べ。胴体が羽布張りで無骨な感じの叔父さんという感じ。エンジンは同じくロールス・ロイスのマリーンで、性能的にも遜色ない。
「禁じられた約束」
ロバート・ウェストール 作
野沢佳織 訳
徳間書店 2005