bar KUDAN
「夕方、開店したばかりのバーが好きだ。店の中の空気もまだ涼しくてきれいで、すべてが輝いている。バーテンダーは鏡の前に立ち、最後の身繕いをしている。ネクタイが曲がっていないか、髪に乱れがないか。バーの背に並んでいる清潔な酒瓶や、まぶしく光るグラスや、そこにある心づもりのようなものが僕は好きだ。」
(『ロング・グッドバイ』村上春樹訳)
それ、「ロング・グッドバイ」ですね?
ニッコリとバーテンダーのレイさんがこちらを向いて微笑む。
彼女の熱心なファンとしては、昼間にこの商店街でお店の準備で買い物なんかしている彼女の姿を見かけたりした時に、ああそうだ、彼女に会いに飲みに行かなくては、と思い出していそいそと口開けに顔を出すわけですけれど。
「そうおっしゃる割には、最近なかなか来て頂けてませんね?」
とまたニッコリされると、恐れ入りました、と、深くこうべを垂れるのみで。
ギムレットには早いらしいので、サイドカーを。
「そういえば先日撮ってきたんですが、また見ていただけますか?」
彼女はいわゆるカメラ女子なので、たまに写真を見せてくれる。
センスの塊、といった彼女の作品を見ていると、頭でっかちに露出だ構図だと机上の論理でアプローチしがちの自分が恥ずかしくなる。
写真はやはりセンスですね。
そう言うと
「お目汚しですが」
とまたニッコリ。
こういう彼女の古風な言い回しが好き。