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内田美由紀
2024年11月19日 00:48
昔、男がいた。思いをかけていた女の所に、ひじき藻というものを贈ると言って思ひあらば葎(むぐら)のやどにねもしなん ひしきものには袖をしつつも (もし思う気持ちがあれば雑草の生えた家の庭に寝もしよう。ひじきではないが引いて敷く物には袖をしながらでも) 二条の后が、まだ帝にもお仕えなさらないで、普通の人でいらっしゃった時のことである。万葉集なら「やど」は「屋の外」すなわち「庭」な
2024年11月19日 00:40
昔、男がいた。奈良の都は離れて、この都(平安京)は、まだ一般の人の家が決まっていないときに、西の京に女がいた。その女は、世間の人よりは優れていた。その人は、容貌よりも心が優れていたのだった。一人ではなかったらしい。それを例の誠実な男が、ちょっと語り合って、帰ってきて、どう思ったのであろうか時は旧暦三月一日、雨がしょぼしょぼ降るときに贈った歌おきもせず寝もせで夜を明かしては
2024年11月19日 00:29
昔、男が初冠(元服)して、奈良の都、春日の里に所領がある関係で狩りに出かけた。その里にとても優美な姉妹が住んでいた。この男は垣根越しに覗き見てしまった。意外にも(その姉妹が現代風で)昔の都に不似合いな様子でいたので、気持ちが惑ってしまった。男は着ていた狩衣の裾を切って、歌を書いて贈る。その男は信夫摺りの狩衣をなあ、着ていたということだ。 春日野の若紫の摺衣 しのぶの乱れ限り知られず