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日本では他人に「おかあさん」と呼ばれる理由  日本語のポライトネスストラテジーと親族語の虚構的用法 |こどものにほんご(34)


家族の呼び方


アメリカ

2021年1月1日以降、「包括性」の観点から性的属性を示すすべての言葉を
下院において使わせないという法案が出され、可決された。
父、母、ブラザー、シスターと言った性別を表す単語は、使うことが許されなくなっている

【出典】「ポリコレの正体」多様性尊重・言葉狩りの先にあるものは
 福田ますみ 著 (2021年12月出版 方丈社)

フランス

学校では「お母さん、お父さん」ではなく、「親1号、親2号」と呼ぶ-。こんな条項を盛り込んだ法案が最近、フランス下院で可決された。

2019/2/28 産経ニュース パリの窓コラム 三井美奈

      保護者のジェンダーに関する子どもへの配慮なのだそうです。

日本

妻を「おかあさん」・夫を「おとうさん」・上の娘を「おねえちゃん」
上の息子を「おにいちゃん」と呼ぶことがあります。
家族の子ども以外から「お母さん」と呼ばれることや
外で「〇〇ちゃんのお母さん」と呼ばれることにストレスを感じる
女性がいるという事実を思うと余計なことを言うようで申し訳ない気もするのですが、家族の中で一番幼い子に視点を合わせている優しい言葉だと聞いたことがあります。

テレビ取材で知らない人に向かって「おかあさん」と呼びかけるのを
聞いたことがある方は多いのではないかと思います。家族内だけでなく
他人にも年少者視点の呼称で話をするのは、親族語の虚構的用法と言うそうです。
「あなたのお母さんじゃないし、子どももいません。」とわざわざ返す女性は今のところ見たことがありませんが、今のご時世考え直された方が良いのではないかと感じています。
とはいえ、誰が見ているか分からないテレビで「〇〇さん」と名前を
さらされるのも不安に思うような今日この頃です。
取材陣も苦慮されているのかも知れません。親族語の虚構的用法について
社で共通理解した上での「おかあさん」ではなく、取材者に一任されているとして、もし私がその立場なら悩んでしまいます。



親族語に関する小森さんの論文


年少者視点の呼称は、固定されたもののように思われていますが
ある家庭での日常の一コマの会話を検証された小森由里さんの結論

虚構的用法の他称詞には恒常的に使われるものだけではなく、
会話の場面に応じて使われるものもある

日本語・日本語教育第5 号2021 親族語の虚構的用法に関する一考察―ポライトネスの観点から―
小 森 由 里


小森さんの論文を拝読し、日本語は相手の立場を慮りながら
人間関係をスムーズにするために場面毎に調整され運用されていると
いうことがよく分かりました。


文科省の考え

日本はどうなっていくのか分かりませんが
学習指導要領を確認したところ

 教育基本法 第 二 章 教育の実施に関する基本
(家庭教育) 第十条 父母その他の保護者は,子の教育について第一義的責任を有するもの であって,生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに,自立心を育成 し,心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。

小学校学習指導要領 P4

道徳 
第2 内容

4.主として集団や社会とのかかわりに関すること
【低学年】(3)父母,祖父母を敬愛し,進んで家の手伝いなどをして,
        家族の役に立つ喜びを知る。
【中学年】(3)父母,祖父母を敬愛し,家族みんなで協力し合って
        楽しい家庭をつくる。
【高学年】(5)父母,祖父母を敬愛し,家族の幸せを求めて,
        進んで役に立つことをする。

学習指導要領 第3章道徳



母語と日本語14 かぞくしょうかい

目標
  ・日本語での家族の呼び方を知る。
  ・今まで練習したひらがなの書き方を思い出しながら丁寧になぞる

P88

母語と日本語15

目標
  ・日本語の家族の呼び方を覚える
  ・日本語を読む
  ・ローマ字を読む
  ・英語をなぞる
  ・母語を書く
   ※先取りする文学作品にプリント以外の呼び方があったら確認する

P89

文学教材における母の呼称

家族の呼び名は、文学作品で触れる機会があります。
たとえば、の呼び方だけでも、「ママ」「(お)かあさん」「(お)かあさま」「(お)かあちゃん」「かかさま」「おふくろ」「おっかあ」「かかあ」「おっかさん」「母君」「母上さま」…その呼び方から、物語の時代登場人物の生い立ち暮らしぶりまでも伝わってきます。

明治になり、文部省が母の呼称差をなくすため教科書に「おかあさん」を
採用したのだそうです。当時の日本では、良家の子女は「おかあさん」
庶民の子は「おっかさん」が多かったようで、母の呼び方で家柄が窺い知れてしまうのはよろしくないということだったのでしょうか。

4年生の国語教材「白いぼうし」(あまんきみこ 作)
タクシー運転手の松井さん「いなかのおふくろが、…」

同じく4年生の「ごんぎつね」(新見南吉 作)
ごん「ははん、…兵十のおっかあだ」


日本で生まれ、日本語を母語とする家族と育つ中で自然に耳にする機会もある「おかあさん」を意味する「おふくろ」「おっかあ」も、外国にルーツをもつ児童にとっては聞き慣れない言葉ですので、このような家族の呼び名を学習する際必要があれば押さえておくと良いと思われます。


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