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『人生万景』イサオヒロミ

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イサオヒロミの『人生万景』です。 仕事やプライベートで感じたことを書きまとめています。
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2020年2月の記事一覧

Vol.2『西新宿/掌の記憶』 人生万景

Vol.2『西新宿/掌の記憶』 人生万景

恩人と西新宿で別れたあと、握手をした手の平を僕は嗅いだ。

恩人が吸った煙草の匂いがした。

煙草の匂いは消えるけど、それ以外は消えない。朝まで手を洗い続けたとしても。

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そのコーチは僕のことを下の名前で呼んでいた。しかも力強く。下の名前で呼ばれるのは初めてだったから。親以外で。最初は抵抗感があった。

ボクシングジムを辞めるとき、お

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『生きていても、死んでいても。』 〜人生万景〜

『生きていても、死んでいても。』 〜人生万景〜

お世話になっていた先輩が亡くなった噂を聞いた。本当かどうかはわからない。でもきっと本当だと思う。信じたくはないけど。本当だと思う。そんな気がする。

あそこに行って、そこで訊いてしまえばちゃんとしたことが判ると思うんだけど。行っていない。行けていない、じゃなくて、行っていない。これからも行かない。行っちゃうと本当が確定になっちゃうから。

時々、先輩が住んでいた家の近くを通ることがある。わざわさ通

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『らしい』 〜人生万景〜

『らしい』 〜人生万景〜

京都にある親戚の家に泊まっている。そのことを起床時に思い出した。

布団から体を起こすと……水槽が目についた。

水槽に顔を近づけて覗いていると、「ウーパールーパーやで」という声が肩を叩いた。

振り向くと、目を擦りながらの姪っ子が立っていた。

「そいつらすごいで。ノウ食われても再生するんやで」

「ノウってこの脳?」

「そうやで。その脳やで」

調べてみると、心臓や目の水晶体、脊髄までも再生

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『待ち合わせ』 〜人生万景〜

『待ち合わせ』 〜人生万景〜

原宿駅で待ち合わせだなんて。どれくらいぶりだろうか。しかも竹下通り口だなんて。記憶にない、くらいない。ないのかも。待ち合わせしたことなんて。ここで。

……いや、ある。あるような気がする。思い出せないだけで。まだ竹下通りを歩いても許される年齢のときに。

大人になったら忘れてしまうようなネバーランド的なあれなのかもしれない。ここは。
……いや、ウェンディは憶えていた。大人になっても。実写版のやつで

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