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恩田陸・六番目の小夜子

恩田陸さんの小説である。多分、2回連続で恩田陸の小説の感想文を書いている。まあ、好きなんで。

青春小説の金字塔といえば、夜のピクニックがあげられると思う。世間一般的にも有名な本だと思う。確か本屋大賞もとったはずだ。でも、私は夜のピクニックよりも六番目の小夜子の方に、青春という得体の知れないモノの匂いを感じるのである。

内容は割と単純な話で、田舎の進学校に転校してきた女の子が、その進学校に代々伝わる小夜子伝説というものと出会い云々という話だ。ちょっと腑に落ちない部分もあるけれども私は好きだ。因みに関根兄弟が出ている話は象と耳鳴りが出版されているので、そちらも是非。面白いので。

青春小説だ。青春=高校というイコール関係で結んでいいのかはわからないが、高校が舞台だ。私が中学一年生で、この本を初めて読んだとき高校、学校の描写に背中をスッと撫でられたような恐怖感があった。ああ、そういうものなのか、そうとも言えるなと深く深く思ったのだ。

いくつか抜粋しよう。

「さて、皆さんはもうこうして十年以上」「学校というものに通っていることになりますね」「学校というのはなんと不思議なところなのでしょうか」「そんなふうに考えたことはありませんか」「学校って何のためにあるのでしょう」「もちろんそんなことはわかりきっていますよね」「そう、勉強するための場所なのです(ここでいきなり声がひょうきんになり、一瞬笑い声が起きた)」「でも勉強するためだけならば」「何もここでなくたってできる」「おかしいと思いませんか」「試しにそこの教室を覗いてごらんなさい」「何が見えますか」「たくさんの同じ大きさの机と椅子」「どれも同じ形をしているがらんとした四角い部屋」「この部屋は何」「そう、これは容れ物なのです」「何を入れるのでしょう」
赤いランプ。少々長い間。
「そう、人間です」

(恩田陸, pp.166-167)

学校というものは回っているコマのようなものなんだな。いつも、同じ位置で、まっすぐ立ってくるくる回っている。

(恩田陸, p.263)

学校とは不思議なものである。同じ時間に、同い年の生徒が、同じ方向を向いて、先生の話を聞いているのである。そして、時には横を向いて話し、窓の外を眺めるのである。面白い。極めて面白い。

高校に在学しているとき、後ろの方の席が好きだった。他の生徒が見えるから。真面目なふりをして、内職している子。窓の外を眺めて、たまに微笑んでいる子。ずっとスマートフォンをいじっている子。授業を受けようと頑張って眠気に抵抗しているんだけれども、最終的に完敗している子。ぼぉっと前を向いている子。今後の人生で、一生交わらなそうな人たちが、同じ空間で、同じ方向を向いて、同じ授業を、全然別のことを考えながら受けている。その光景が人生の交差点を見ているみたいで好きだった。

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