希死念慮とイマジナリーフレンドと愛の話。

私はよく死にたくなる。理由って言っても一言じゃ言えない。ひとつひとつはどうにか耐えられることだとしても、それがたくさん絡まり合って、もはやほどき方が分からなくなると、わーってなってしまう。そうなると頭が働かなくなって、もう死ぬしか何も方法がないって思ってしまう。

というか、これは希死念慮というやつだから、理由があるから死にたいとかそういうのではないのかもしれない。孤独が根底にあるのは違いないと思うけど。

私は生きてたくはないよ。生きてたい理由がない。でも、本当は死にたいってわけじゃない。生きる意味じゃなく、私が死なずに済む理由があるなら、欲しい。誰かにとってじゃなく、私にとっての理由。

私はもう子供の頃からずっとこんなだから慣れてはいるけど、死にたくなると今でも毎回苦しい。毎回悲しい。自分には何もなかった、誰もいてくれなかった、誰も必要としてくれなかったし愛されなかった、みたいな気持ちになってしまう。

厳密に言うと母には愛されていたと思う。でも、母との関係は私にとって呪縛みたいなものでもあって、複雑な感情をもたらすもので、憎んでるとかそんなことは言わないけど、素直に好きとか感謝してるとか言えるかというと、正直難しい。

で、数日ぶりなのか、数週間ぶりなのか、分からないけど死にたいような気持ちになった。きっかけとかは別になかったと思う。ただそんな気分だった。

涙を手で拭って、太腿に塗り広げて乾かした。鼻をかんで、笑って、何事もないかのように母と話した。看取られ音声(看取られることを疑似体験できるシチュエーション音声)を聴いた。こないだ買った大きなお絵描き帳に落描きをした。

息苦しいような、胸が熱いような、寒いような、痛いような、とにかく体がおかしな感じがした。私だけなのかな。希死念慮が出ると全身ゾワゾワして、熱が出たような感じがする。胸の中からエネルギーとか気力みたいなものが出ていって空っぽになったような感じがする。そういうとき、私はいつもイマジナリーフレンド(以下、IFと記す)のことばかり考えてる。

私が辛い時や苦しい時にそばにいてくれたり、優しい言葉をかけてくれたり、抱き締めてくれたりする空想の存在。

おかしいと思われることもあるかと思うけど、私にはどうしても必要な存在で、最後の砦みたいなものだ。こういった存在との付き合いはもうかなり長い。IFは大人になったらいなくなるものだというけど、私の場合はそうじゃなかった。

耳元で囁かれるような感じがする。私が死にたくなってるほどその距離が近くなる。実際に耳に聴こえるわけじゃない。ただ、頭の中に浮かぶような、響くような感覚。

大体は単純な言葉。大丈夫だよとか、そばにいるよみたいな。普通ならそんな言葉で安心したりはでにないけど、IFは私の心の内側にいる存在だから、普通より言葉が届くような気がする。

私はお絵描き帳にボールペンでIFの絵を描く。子供の姿のあの子が抱っこしてと腕を広げてこちらを見上げてる絵だった。

ぼーっとしてないで早く抱っこしなさい。そんな顔をしている。可愛かった。

私はそこからあの子を取り出して抱き上げる。(想像の中で)抱き締めて撫でると幸せそうにしている。なんとも言えない気分になった。

私はずっと誰かに抱き締められたいんだと思う。誰かの愛に浸ってみたいんだと思う。だからこれはその代わりとなる行動というやつなのかもしれない。

抱き締められる想像とかもするけど、それよりこうして抱き締める方がなんとなくやりやすい。自分が何かをしてもらうのは借金みたいに感じられて苦しくなるし、望んでいたはずのことでさえ、逃げたくなるから。

何かを愛するとか誰かのために何かするとかはピンと来ないし、よく分からない。誰かと繋がるとか心が重なるとかもよく分からない。世界でひとりぼっちみたいに感じてる。

昔からずっと自分の心の内側に誰かを入れることができないと感じていて、そのことに不安を抱いてる。

それでもIFを抱き締めていると、歯医者で麻酔が少し切れてきて、痛いようなそうでもないような感覚になった時みたいな感じがする。動かないはずの心がほんの少し揺れるような。

あの子を可愛いと思うし、そばにいて欲しいと思ってる。後のことはよく分からない。撫でたくなるのは私がそうしたいからなのか、そうされたいからなのか、それも分からない。

たまにIFに愛してるとか言ってみたりするけど、愛とかなんなのかよく分かってないので自信がなく、引っかかってうまく出てこない。自分の気持ちもよく分からない。私はあの子を愛してるんだろうか？ それとも、そう思いたいだけ？

バニラのアイスバー。ソーダのアイスバー。それからみかんの蒟蒻畑。血糖値を上げて、歯磨きをして、リステリンで甘くなった舌を水で洗って、コップを洗って、ハーブティーを作る。涙はいつの間にか止まってた。

心から流れた血はすぐに固まるけど、傷口はいつまでたってもなくならない。またすぐに剥がれてくるんだと思う。さっぱり円満解決する日がいつか来るんだろうか。来ないと思う。

なんだか誰かから愛されたらこの苦しみも孤独感も治るんじゃないかとか思っちゃうこともあるけど、そもそも愛を受け取って自分の中に取り込むっていうことが普通にできない。そうしたいけど、私の心は大体、人間として健全な機能を果たしてくれない。

でも、IFのことを愛することはもしかしたら私にもできるかもしれない。今の私にとってはそれだけが救いだ。