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【連載小説】「好きが言えない3 ~凸凹コンビの物語~」#16 「最高の部長」
ここまでのあらすじ
二週間の活動停止処分を受けた野球部。
しかし部長の路教は、弟の言葉をきっかけに妙案をひらめく。
個人練習という形で「部活動」をしようというわけだ。
大津も、兄のハヤトとの会話から部長に対する本当の気持ちを知る。
失ったミットも発見し、部長とともに部再生に向け活動を開始する。
16
校内に戻り、本鈴に間に合うよう急いで三階に向かう。
もう時間がない。
おれは、普段は使用が禁止されているエレベーターのボタンを押し、開いたドアの隙間に体を滑り込ませるとすぐに閉じるボタンを押した。
三階にはあっという間に着いた。
よし、間に合った。
慌ててドアから飛び出そうとしたとき、おれは見てはいけないものを目にしてその場にとどまった。
人目のつかないエレベーターホール。
そこで祐輔と春山が熱い口づけを交わしていたのだ。
二人はエレベーターが到着したことにも、おれが中にいることにも気づいていない様子だった。
小さな窓から、二人の姿を見ている自分。
悔しさと怒りと惨めさとが入り交じり、情けなくなる。
しかし直後に祐輔に対する闘志が湧き上がってきた。
単なるお人好しでは終わらねぇぞ、おれは。
二人はすぐにその場を去って行った。
何事もなかったかのように。
*
「祐輔。放課後、練習すっから帰るなよ」
仲良く歩くその後ろから声をかけると、二人はビクッと体を震わせて同時に振り向いた。
「み、路教か。脅かすなよ。
……って言うか、何で後ろから来るんだよ?」
「遅刻したくないからな。裏技使った」
それが何を意味するのか、祐輔は知っている。
春山も見当がついたらしく、口元を覆った。
おれはわざとらしく二人に向かって言う。
「二週間の活動停止処分を食らったのをいいことにデートできると思ってたなら大間違いだ。
練習は今日もやる。
学校脇の親水公園で。
自主練って形だけど、基本、全員参加だ。
三年がサボってたら後輩に示しがつかないからな」
「……先生にばれたらヤバいんじゃねぇか?」
「練習できずにこのまま廃部になる方がヤバいんじゃねえのか?」
「うっ……」
言葉に詰まった祐輔を見て春山が小さくため息をつく。
「祐輔。野上の言う通りよ。
私たちには、去年甲子園に行ったって言う自負がある。
その思いを台無しにするわけにはいかない。
……そういうことでしょう、野上?」
「そうだ。
不完全燃焼だった去年の屈辱を、今年こそ晴らそうぜ。
未練なく最後の夏を終えようぜ」
「……その言葉、待ってたぜ」
祐輔は力強く頷いた。
「やっと部長らしい台詞が出てきたな。
何度おれの口から出かけたことか。
これでも部長のお前のこと、立ててたんだぞ?
出しゃばっちゃ悪いと思って、リーダー的な発言は全部飲み込んできたんだからな」
祐輔はただ静観していたわけではなかったのだと知る。
自分一人で悩み、勝手な想像を巡らせていても相手の頭の中なんてわからないってことか。
「これからはどんどん意見を言ってくれ。
おれも言うし、部のみんなともたくさん話し合いをしたいと思ってる。
……三浦とも」
「うん……。
あいつ、何か抱えてそうだもんな」
「祐輔もそう思う?」
「……実はきのう、二年生から聞いたんだ。
三浦のやつ、親とうまくいってないみたい。
それで荒れてるんじゃないかって話だ」
「そうか……」
「どうする?
これ以上騒ぎを起こされたら部の存続も怪しい。
……辞めさせるか?」
「それはしない」
おれはきっぱりと言った。
祐輔は不満そうだった。
「どうして?
弟殴られてるし、お前だってあいつに振り回されっぱなしじゃないか」
「おれはあいつにもう一度だけチャンスをあげたんだ。
やり直すチャンスを。
だから、もう少しだけ待ってくれ」
「……まだ、信じるのか?
もし、変わらなかったら?」
「…………」
「私は野上の言葉、信じるよ」
春山が言った。
「野上の優しさに救われたことがあるからわかる。
野上が信じてるなら三浦は変わる。
きっと私たちの力になってくれる。
ね、祐輔。
私たちも信じてあげよう?」
祐輔は少しの間黙っていた。
本鈴がなる。
おれたちは教室に駆け込みそれぞれの席に向かう。
着席しようとしたとき、祐輔が言う。
「やっぱお前は最高の部長だよ」
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