【連載小説】「好きが言えない3 ~凸凹コンビの物語~」#9 部長らしく
ここまでのあらすじ
大津理人は部員の三浦に「ツルヤ書房」に呼び出される。
何かある、と思いつつも呼び出しに応じたが、三浦は現れなかった。
代わりにやってきたのは、弟を連れ立った部長の野上だった。
犯人扱いされる、と思い、とっさに逃げてしまう。
が、悪いことをしていないのに逃げたことを後悔し、本屋に引き返す。
すると、本屋の前で部長の野上が待っていた。
弟に確認し、犯人ではないことがわかったのでそのことを伝えようとしたのだ。
犯人の容疑が晴れ、大津は野上に「部長らしく」振る舞うよう意見する。
9
大津にはっきりと言われ、おれは心底落ち込んだ。
けれど、それは事実でもあった。
大津に言われてみて気づいた。
おれはきっと、誰からも嫌われたくなかったんだって。
だから「優しさ」を振りかざして、みんなに自由な練習をさせている「つもり」になっていた。
みんながついてこないのも当然だ。
おれがみんなの顔色ばかりうかがって、部長らしい指導力を一つも発揮しようとしていなかったのだから。
その上、こんな自分の弱さを「永江先輩のマネ」をしていたからうまくいかなかったんだと言い訳し、先輩に泣きついた。
きっと先輩は、おれが気づいていなかった部分さえわかっていたのだろう。
だからこう言ったのだ、「嫌われる勇気も必要だ」と。
自分に問うてみる。
おれはどんな野球部にしていきたいんだ? って。
おれは、各々の信じる野球をすれば、それを合わせればもう一度甲子園にだって行けると思っている。
そのためには何をすればいい?
まず、おれが手本を見せなきゃならないだろう。
これまで以上に真剣に、今度はみんなの前で堂々と練習をする。
投げて打って走って……。
どうやらおれには、そうやって頑張りを「見せる」ことでしか周りの注目を集められないみたいだ。
自分の手を見つめる。
甲子園を目指していた一年前は血がにじむほどバットを振っていた手。
マメは堅くなり、今では痛みすら感じない。
おれの努力の結晶がここにはある。
そうだ、おれは今日まで頑張ってきたじゃないか。
もっと自信を持ったっていいじゃないか。
おれは永江先輩とは絶対に肩を並べることは出来ない、超えることは出来ないと勝手に決めつけ、自分を低く見積もりすぎていたのだと気づく。
でも先輩が言ったように、おれはおれなんだ。
先輩と同じではなく、おれのやり方、おれの能力を最大限生かして「部長」をすればいいんだ。
自分の中で考えがまとまったら、突然目の前が開けたような感覚になった。
その瞬間、「やってやるぞ!」という気持ちがわいてきてベンチから立ち上がった。
辺りはすっかり暗くなっていた。
「大津、きょうは正直に言ってくれてありがとう。
やっと自分のやり方が見えてきたよ」
おれの言葉に大津は目を見開いた。
「まさか礼を言われるとは思っていませんでしたが、こんなことでよければいつでも言いますよ。
……ひょっとして、本郷センパイより役に立ちます?
なら副部長にしてもらおうかなぁ」
「そういうなら、祐輔くらい信頼されないとな。
まぁ、おれも頑張らないといけないんだけど」
そう。
やっぱりあいつは、祐輔は人望が厚い。
エースとしてチームを引っ張れるのが一番の要因だとは思うけど、あいつは敵を作らない。
ライバル意識を持っているおれに対しても、困っていれば手を差し伸べてくれる。
だからこそ。
部長に任命してくれた永江先輩には感謝しないといけない。
自信のないおれに、いろいろ劣ってるおれに、成長するチャンスをくれたんだから。
「大津。明日からは真面目に部活に顔出せよ?
今晩中に、練習メニュー作っとくから」
「明日から?
センパイ、急にやる気だなぁ。
鬼部長は向いてないって言ったばっかりなのに」
「鬼になる気はさらさらねぇよ。
でも、やるんだ、おれは。
大津だって、もう一度甲子園に行きたいだろう?
おれは本気だよ。
みんなで力を合わせれば絶対いけるって信じてる」
「おっ、その言葉、待ってましたよ」
大津が、今度は目を輝かせながらおれを見上げた。
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