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【連載小説】「好きが言えない3 ~でこぼこコンビの物語~」#2 目撃者
⚾【前回のお話 #1 事件】
2
いくつか候補はあったが、川越駅から電車で帰るのが妥当という結論に至り、弟も承諾してくれた。
乗ってきた自転車は明日回収すればいい。
「父さんと母さんには言わないで」
校門を出るなり、弟はそう言った。
「やっぱり……。
町内会長の申し出を断って正解だったぜ」
「兄貴は察しがいいから助かる」
弟は安心した様子だった。
「それで、親に言えない理由って?」
おれが問うと、弟は歩みを止めてぽつりと言う。
「……万引き」
「えっ……」
「見ちゃったんだ。帰り道にある本屋で、雑誌をカバンに入れてるところを。
そしたら……」
「殴られた」
「うん……」
「だけど、それって親に言えないことか? お前は関係ないじゃん」
「僕が本屋で立ち読みしてたのがバレる」
「なんだ、そんなこと……」
万引きの目撃者ならむしろ感謝されるはずだ。
学校帰りに本屋に立ち寄っていたことをとがめられるとは思えない。
ところが弟は、
「それだけじゃないんだ、兄貴……」
と言うなり黙り込んでしまった。
話しかけておきながら口を閉ざしてしまう癖がこいつにはある。
おれは言いだすまで待った。
だが、彰博はなかなか言い出さなかった。
「早く言えよ」
あんまり黙っているのでついせかしてしまった。
弟はようやく重い口を開く。
「K高の、人だった」
「えっ……」
「それも、野球部の人……だった」
せかしたことを後悔した。
開いた口が塞がらない。今度はおれが黙る番だった。
「……どうして野球部だってわかる?」
しばらくしてからそう問いかけるのが精いっぱいだった。
「この前試合を見に行った時、メンバーの中にいた人によく似てたんだ」
「何番だったか覚えてるか?」
「……野球のことはわからないから」
「ちっ……」
根っからのインドア派はこれだから困る。
深くため息をつき、しばらく考え込む。
彰博の見間違い、ってことも十分考えられる。
ただ、野球には疎くても記憶力はいい。
公式戦は何度も見に来てくれてるし、彰博がそういうんだから間違いないんだろう。
自宅にはチーム全員で撮った写真がある。
それを見せればおそらく「犯人」はすぐ判明するだろう。
でも「犯人探し」はしたくなかった。
たぶんこれは、おれに与えられた試練。
部長としての信用を取り戻すための。
「……お前、犯人を捕まえたい?」
おれが問うと、彰博は「ううん」と答えた。
「悪いことをしたって自覚があるなら、素直に認めて謝ってほしい。それだけ」
ほっとしている自分がいた。
もしここで、「絶対に許さない。捕まえて殴り返したい」などと言われたらおれは、どうしたらいいかわからずに気が狂っていたかもしれない。
「だな。意見が一致してよかった」
「うん。だって兄貴は野球部の部長でしょ。そんなことしたら仲間を売ることになっちゃうし」
「……友達いないくせに、そういうことはいっちょ前に言うんだな」
6つ離れてるから、彰博のことはずっと「赤ちゃん」扱いしてきた。
何かあったら守ってやらなきゃって気持ちもあった。
だけど今回ばかりは、彰博の言葉におれが助けられた気がしている。
「友達はいなくても、一般常識はあるつもり」
殴られたっていうのに、そんなことをサラッといえる弟がちょっとだけ格好よく見えた。
*
二人で帰宅の途に就くと、仕事を終え帰ってきていた両親にそろって出迎えられた。
「彰博?! どうしたのその顔は?!」
言いながら母は目を三角にしておれを睨んだ。
おれがにらまれるってことは、まだ母の耳には何の情報も入っていない証拠。
つまり、町内会長からの連絡は来てないってことだ。
話が来るのは時間の問題だが、今のところは言い逃れもできるか。
「転んだんだ。僕がへまをした。それだけのこと」
彰博はおれが言い訳をする間もなくそう言った。
そしておれに「話を合わせろ」とばかりに目配せをした。
「そう、学校帰りにたまたま出くわしてさ。
ドジだよなぁ、ほんと。
ひどいけがだったからさ、途中の薬局に立ち寄って手当てしてたら遅くなったってわけよ」
「それで一緒ってわけ?」
「そう」
「あんたたち、そんな仲だったっけ?」
母は訝しがったが、結局それ以上は追及してこなかった。
「バレたかな」
夕食を共にしていると、彰博が小声で言った。
「バレただろうなぁ。でも、母さんだって察してくれるさ。
おれがお前くらいの時、友達に殴られて顔腫らして帰ってきたけど、『転んだ』って言って通したことあったし。
大丈夫、何とかなる。兄ちゃんに任せとき」
「うん。ありがと」
頼りにされたからにはいいとこ見せなきゃ。
部活ではうまくいかなくても、彰博の前ではせめて「かっこいい兄」の姿を見せたかった。
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