【連載小説】「好きが言えない3 ~凸凹コンビの物語~」#17 三浦
ここまでのあらすじ
二週間の活動停止処分を受けた野球部。
しかし部長の路教は、弟の言葉をきっかけに妙案をひらめく。
個人練習という形で「部活動」をしようというわけだ。
大津も、兄のハヤトとの会話から部長に対する本当の気持ちを知る。
失ったミットも発見し、部長とともに部再生に向け活動を開始する。
17
放課後練習をすると聞いた部員たちは様々な反応――驚き、あきれ、興奮、喜び――を示した。
が、欠席するものはいなかった。三浦を除いては。
少し前、おれに本音をぶつけてくれた二年生にいたっては誰よりも早く練習場所に来てウォーミングアップを始めていた。
彼はおれの姿を見るなり駆け寄ってきた。
「部長。オレたちに練習する時間と場所を与えてくれてありがとうございます。
部活が出来ないって聞いたとき『野球がしたい、やっぱりオレは野球が好きだ』って思ったんです。
……こんな部活辞めたい、だなんて言ってすみませんでした」
「いや、そう言ってくれたからこそ、部長として部をどうするべきか考えることが出来た。
これからも何か不満や改善してほしいことがあったらどんどん言ってくれよ。
みんなの野球部だ。みんなでいい部にしていこう」
ノックも出来なければ遠投も出来ない。
ただ体作りのための走り込みとキャッチボール、素振りを繰り返すだけの日々。
それでもみんなは好きな野球が出来る喜びをかみしめているように見えた。
*
三日が過ぎた頃、
「野球部が外で堂々と練習してるぞ」と噂が立ち始めた。
野次馬も見に来るようになった。
「やりにくいなぁ」
祐輔がぼやく。
「なあ、路教。ほんとにここで続けてていいのかなぁ?」
「ちょっとの辛抱だ。
それに、ここで目立つことで新入部員の興味も惹けるってもんだ」
「確かに一年の姿もちらほらと……。あっ……!」
「どうした?」
「三浦がいる……」
祐輔の言葉を聞くやいなや同じ方を向く。
視線の先。
確かに三浦らしき姿が見えた。
が、おれと目が合うと彼は走り出した。
「ちょっと行ってくる。
祐輔、少しの間ここを頼む」
「ちょっ……! 路教っ!」
戸惑う祐輔をよそに、おれは三浦の元へ走った。
「三浦、待ってくれ! 話があるんだ!」
声をかけても反応はない。
それどころかあっという間に引き離される。
だめだ、追いつけない……。
諦めかけたそのとき。
突然、三浦の前に自転車が飛び出した。
「センパイが話あるって言ってんだから、聞いてやったら?」
三浦の足を止めさせたのは大津だった。
彼は「ちっ」と舌打ちをした。
「どけ! オレのことは放っておいてくれ!」
「やだね。
なら何で練習を見に来たんだよ?
そっちから近づいてきたくせに、放っておけって矛盾してる」
「…………」
「大津、ここはおれが話す」
おれはすぐさま二人の間に入った。
大津は何か言いたげだったが、自転車を降り、三浦に眼力を飛ばす役に回った。
逃げ場を失い、うつむく三浦に話しかける。
「よく来てくれたな。ずっと待ってたぜ」
「…………」
「野球、しに来たんだろ?」
「…………」
「お前のことはみんなも承知している。
その上でみんな、待ってる。
だから何の心配もいらないし、前と同じように練習に加わればいい」
三浦は黙っていた。
おれは話し出すのを待った。
しばらくして、
「……どうしてそんなに夢中になれるんですか。
たかが野球でしょう?!」
三浦は今にも泣き崩れそうな様子で言った。
「たかが野球、かもしれない。
だけど、おれたちは一つの球を打ったり捕ったりするのが楽しくて仕方ないんだ。
……三浦だってそうだったんじゃないの?
甲子園に行けてすごく喜んでたじゃん。
どうして急に嫌になっちゃったんだよ?」
「……行っただけじゃ、誰も喜ばないんですよ。
そこで結果を残さなかったら意味がない。
勝ち進んだ分無駄な時間を過ごしただなんて言われたら、誰でも嫌になりますよ」
「……親がそう言ったのか?」
「…………」
三浦は自分の頑張りを認めてもらえなかった。
それで苦しんでいたのだと知る。
気がつくことが出来なかったおれ自身を責めたくなる。
けれど、時間は戻せない。
今、ここから出来ることを一つずつやっていくしかない。
ここまで無駄なこと、無駄な時間を過ごしたといわれても、ここからやり直すことは出来る。
おれたちの人生は、物語は、ここから書き換え可能なんだ。
「三浦はどうしたい? おれはそっちが知りたい」
おれは彼の目をしっかりと見ていった。
三浦は黙って聞いている。
「親の期待に応えたいなら、残念だけど部を去ってもらうしかない。
でももし続けたいのなら一緒にやろう。
おれはいつでも歓迎する」
「歓迎……」
「ああ。
だから一緒にやろうぜ。大好きな野球を。
親に遠慮すること、ないじゃん。
三浦が好きなら、やったらいいじゃん。
おれはそう思うよ」
三浦は眉間にしわを寄せ、何かを考えている様子だった。
が、少しして制服のポケットからボールを取り出した。
「いまの部長の言葉。
どこまで本気か、試させてもらいますよ」
そういうなり、三浦は投げる構えを見せた。
「今から投げるこの球を落とさずに捕れたら戻りましょう。
どうしてもオレの力が必要だって言うなら……!」
最後まで言わないうちに彼はボールを投げた。
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