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【連載小説】「好きが言えない3 ~でこぼこコンビの物語~」 #1 事件
「好きが言えない」シリーズの続編です。
前作(前編・後編)では……
・恋人を想う気持ち、
・キャプテン・永江の心の葛藤、
・友情
などをテーマに描きました。
本作のテーマは「家族」。
読者の皆様にも共感していただける作品づくりを心掛け、
完結まで走りたいと思います。
1 事件
そこでの経験は、一言では説明することができないほど素晴らしいものだった。
あの夏、おれたちの夢は叶った。
そう、甲子園に「行く」って夢だ。
結果は初戦敗退だったけど、それでもみんな胸を張って帰ってきた。
県代表ってだけで誇らしかったし、このままのメンバーでずっとやっていきたいとも思っていた。
それだけ、永江先輩の影響力は大きかった。
あまりにもすばらしい先輩が率いた最高の夏。
そのあとを二番手ピッチャーであるこのおれが、野上路教(のがみみちたか)が引き継ぐなんて誰が想像していただろうか。
*
「なんで祐輔じゃないんですか!?」
噛みついたのはおれだけじゃない。
ほかにも何人かが同様の反応を示した。
けれど永江先輩は淡々と、
「その発言力を買ってのことだよ」
と言ったのだった。
「いいかい、野上クン。 人にはそれぞれ役割ってものがある。
確かに、本郷クンは素晴らしいピッチャーだし、彼の投球がチームに良い影響を与えるのも事実だ。
でも、ピッチャーは周りに助けられてこそ力を発揮できるんだ。……わかるかい?」
「……おれが、祐輔をサポートするってことですか?」
「そう。
君にもピッチャーの素質はある。
でもそれ以上に、チームをまとめ上げるだけの力がある。
部長に必要なのはこっちだ。
二年の中で唯一、君だけが持っている力。
それをこの一年、発揮してもらいたい」
「……おれに、できるでしょうか」
「できるかどうかは、やってみなけりゃわからないさ。
でも、君ならやってくれると信じているよ」
永江先輩に言われては断ることもできず、引き受けるしかなかった。
*
優秀でいつづける。
言うのはたやすいが実際のところ、これがなかなか大変なんだ。
技術的な面についてはこれまで努力で何とかしてきたし、うまくもいっていた。
だけど「部長」って役職ではそれが通用しない。
頑張ってるのに結果が出ない。
むしろ悪いほうにばかり進む。
それって、おれだけだろうか。
☆
それから半年。5人の後輩が去っていった。
部員のやる気は皆無と言ってもよく、気づけば練習をさぼる人間のほうが目立つようになっていた。
一応、部としての活動はしているものの毎日「自主練」ばかり。
実戦に向けた練習はほとんどできていない状況だった。
永江先輩、やっぱりおれを部長にしたのは間違いだったんじゃないですか?
祐輔が部長をしていたら今頃は……。
みんなの気持ちをつなぎとめようと頑張ってきたけどもう限界。
年度が替わり、新入部員を迎える時期になったというのに部員が集まる気配もない。
そりゃあ、ろくすっぽ練習してないんだから、活動してないんじゃないかと思われても仕方がない。
それでも「部長」だから、いや、「野球が好きだから」おれは部活に出る。
体操服に着替え、部室のカギを取りに職員室へ向かう。
「野球部です。部室のカギ、取りに来ましたー」
本当はそんなこと言う必要はないんだけど、黙って入室してカギを持っていくって行為が泥棒みたいでおれは嫌だった。
さっとカギを取り、出ていこうとした時。
「待て、野上!」
突然、肩をつかまれた。
恐る恐る振り返る。学年主任の先生だった。
えっ、なんか、悪いことしたかな。
ひょっとして、大会成績が振るわないから部長として何かしらの責任を取らされる、とか?
一瞬のうちに憶測が駆け巡る。
しかし、先生の口からは予想外の言葉が飛び出す。
「ちょうどよかった。君の弟さんがここへきている。それもけがをして」
「……は?」
意味が分からなかった。
弟がここにきてる? けがしてる? なんで?
6つ下の彰博(あきひろ)が通う小学校は、ここから何キロも離れている。
何らかの事情でおれを頼ってきたとしても、どうやってここまで……?
混乱していると、本当に彰博の姿が目に飛び込んできてハッとした。治療はしてあるが、目元や口元から出血した痕(あと)がはっきりと見て取れたからだ。
「どうしたんだよ、その顔。いったい、何があった……?!」
「…………」
弟は口を真一文字に結んだまうつむいた。
そのとき、先生の後ろから聞き覚えのある声がする。
「あ、野上君! よかったよかった」
「えーっ!?」
驚いたことに、それは二軒隣に住む町内会長だった。
会長はおれが聞くより早く、一連の流れをしゃべり始める。
「実はたまたま散歩中にね、弟君が殴られてる現場を目撃しちゃったんだよ。
白昼堂々と、最近の若者は何をしでかすかわからんね。
それで慌てて止めに入ったんだが、すまない、逃げられてしまった」
「いえ、本当に助かりました。……それで、親に連絡は?」
「それなんだけど、弟君が『兄貴に一番に連絡してくれ』っていうもんでね。
まぁ、野上君が立派な青年に成長したのは知ってたから、
それじゃあってことで私がここまで車で連れてきたというわけなんだよ」
「ああ、それでここに……」
両親は市外に勤めに出ている。
連絡が取れたとしても、駆けつけるには一時間以上かかるだろう。
K高なら車で十分ちょっと。
彰博も分かっていたのかもしれない。それに……。
「野上、一応警察に連絡したほうがいいぞ。弟さん、けがをさせられたんだし、逃げた犯人が今後も無差別に暴行を繰り返す恐れすらある」
先生が神妙な顔でそういうと、町内会長もうなずいた。
「あー、とりあえず家に帰って、落ち着いたら……。先生や、町内会長のお手を煩わせちゃいけないんで、おれが、やります……!」
おれは慌てて言葉を告げた。
彰博がおれを頼ってきた、その気持ちを台無しにしたくなかった。
先生たちは「そこまで言うなら……」と何とか納得してくれたので助かった。
学級委員をしているおかげか、先生受けはいいほうなのだ。
「一緒に車で帰ろう」という会長の親切も丁重に断った。
多分彰博がそれを望まないだろう。
「兄弟二人、話したいことがあるんで」と適当なことを言い、こんな時だけ仲の良さをアピールする。
けれどそれを疑うことなく「相変わらず仲いいねえ」といって会長は一人先に車で帰っていった。
「部室が空いてないからどうなってんのかと思えば、大変なことになったな」
「祐輔。悪いけどおれ、こいつ連れて帰るわ」
いつからいたか分からないが、職員室の隅で一部始終を見ていたであろう祐輔にそう告げる。
「部活はテキトーにしといてくれればいいから」
「ああ。……って言っても、この頃はいつもテキトーだけどな。
みんなにはなんて言っとこうか? ……ありのままに言わないほうがいいだろ?」
祐輔の、さりげない優しさ。
ふだんは嫌味に感じるが、今日だけはありがたかった。
「そうだな……。まっ、家の都合で帰った、とでも言っといてくれりゃあいいよ」
「了解」
「……わりぃな。なんか変わったことがあったらメールするわ」
「いいってことよ。仲間だろ?」
勝手にライバル視してるおれが冷めた物言いをしても祐輔はいつもこんな調子で接してくれる。
どんなに頑張っても適わない。おれはいつも二番。
それが悔しくてたまらないのに「仲間」と言われてうれしいと感じてしまう。
そんなおれが嫌いだ。
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