【連載小説】「好きが言えない3 ~凸凹コンビの物語~」#14 「強い人」
ここまでのあらすじ
三浦は大津に自らの犯行を認める発言をした。
一年生から活躍してきた大津への嫉妬心からの行動だった。
その後も続く悪質行為に激高した大津は三浦を暴行してしまう。
そのために野球部は二週間の活動停止処分を受け、部長をさらに悩ませることとなる。
14
制服が濡れた理由をごまかす文句が思いつかず、「川で泳いだ」といったら母から拳が飛んできた。
「今から洗って明日までに乾くかしら? そもそもこの制服って洗濯機で洗えるんだっけ……?」
母は一人でブツブツ言いながら、制服の洗濯表示とにらめっこしていた。
と、そこへ機嫌の悪そうなハヤトがやってくる。
「一体何をやらかしたんだよ?
きょうはやたらと腹の立つ一日だったんだけど、『川で泳いだ』ことと関係あるの?」
双子って言うのは不思議なもので、離れていても一方の心身が不調だと、もう片方も何かしら体に異変を感じるように出来ているらしい。
だから母はごまかせても、ハヤトにはごまかしが利かない。
ここで嘘をついたところで結局ばれてしまうのだ。
本当は言いたくなかった。
今日の出来事は思い出すだけでげんなりする。
でも、もしかしたら吐き出せばすっきりするかもしれない。
「おれの愚痴を聞く覚悟があるなら言うけど?」
「慣れてるから大丈夫」
おれはセンパイのこと、三浦のこと、ミットを捨てられたこと……。
すべて話した。
そしておれの想い――不満、怒り、悲しみのすべて――をぶつけた。
ハヤトは、いつになく真剣に話を聞いてくれた。
おれが落ち着くまで口を挟まず、ただひたすら頷いてくれた。
ありがたくもあり、また気恥ずかしくもあった。
「……あのセンパイを信じたおれが馬鹿だったよ。
いくら言ったってあれだもんな。どうしようもないぜ」
「そうだろうか……」
ここでようやくハヤトが口を挟んだ。
「おまえの方が部長さんに助けられたんじゃないかと、ぼくは思うけどなぁ」
「えっ、おれの方が助けられた?」
「おまえはすぐに感情的になって暴れるけど、部長さんはそうしなかった。
すごい人だと思わないか?」
「……嫌われるのが怖いだけじゃねーの?」
「そうだとしても、だ。
……理人はそのとき、どんな気持ちだった?」
「うっ……」
三浦を前に大暴れしたにもかかわらず、センパイは咎めなかった。
馬鹿呼ばわりしても、ただ静かにおれを諭しただけだった。
あのとき、怒りをあらわにしてくれたらどんなによかったか……。
ふうっと息を吐く。
「……正直な話、おれは自分の小ささに絶望したんだ。
声を荒げて相手を威嚇することでしか、自分を強く保てない。
……センパイは情けなくもないし、馬鹿でもない。
あの人こそ、本当に強い人だ」
ハヤトに話したことで、心の奥でおれはセンパイのことをそんなふうに思っていたんだと知る。
そう。
センパイは誰に対しても優劣をつけないで接することが出来る人。
そしてこんなおれのことも、ただの生意気な後輩としてじゃなく「人」として扱い、頼りにしてくれた。
センパイが広い心で包み込んでくれたからこそ、おれのすさんでいた心はバラバラになる寸前で救われたんだ。
センパイの力になりたい……。
本気でそう思う。
二週間の部活停止を食らった原因はおれにある。
しょく罪の意味も含めて、センパイが困っているなら役に立ちたかった。
「部長さんを助けてあげたら?」
ハヤトが言った。
「いまそう思ってたとこだよ!
……でもその前に探し出さないと」
「ミットか……」
「ああ……」
「……ぼくも探すよ」
耳を疑った。
けれどもハヤトは続けて言う。
「おまえの誇りなんだろう?
ばあちゃんにいいとこ見せるためにも必要なんだろう?
だったら、一緒に探すよ。
一人で探すより、その方が効率もいいだろう」
「ハヤト……」
感傷的になっているせいだろうか。
ハヤトの優しさが、きょうは妙に身にしみる。
それに、とハヤトは続ける。
「理人のその一生懸命さを見習おうと思ってね。
たとえそれがぼくに対する競争心からだったとしても、何かに情熱を注ぎ込み続けられる人はそう多くないと思うんだ。
……ぼくの求める答えは、どうやら本には載っていないらしい。
今まで苦手意識があって避けてきたけど、行動したその先に答えがあるって今は思ってる」
「……ふん、褒めたって何も出ないぜ?」
「ぼくはただ、思ったことを言っただけさ」
明日、明るくなったら探そう、とハヤトは言った。
「……朝から探す気? けどおまえ、学校は?」
「一度、サボってみたいと思ってたんだ。
何事も、一回くらいは経験しないと」
真面目で通してきたハヤトがそんなことを言うので開いた口が塞がらなかった。
そのとき、ピンと閃く。
「さてはおまえ、昨日センパイから何か吹き込まれただろう。
でなきゃ、急にそんなことを言うはずがない」
それしか、思い当たらなかった。
ハヤトは「さぁ、どうだか」と言ってはぐらかした。
なんだよ、センパイ。
おれの知らないところで、おれでさえ手こずるハヤトの心を掴むなんてやるじゃん。
ますますセンパイへの興味がわく。
お人好しで不器用なセンパイと、ちゃんと野球がしたい。
わくわくしている自分がいた。
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