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【連載小説】「好きが言えない3 ~でこぼこコンビの物語~」#3 双子

前回のお話 #2 目撃者

ここまでのあらすじ

K高野球部3年の野上路教(のがみみちたか)は、部長を任されたもののチームをうまくまとめられず悩んでいた。
そんな時、弟が「部の誰かに殴られる」という事件が起きる……。



 最近じっとしているのが難しい。
 何をしてもイライラするし、試合も勝てないから練習にも身が入らない。

 どうしたのかな、おれ……。

 原因はわかっている。
 けど、認めたくないって気持ちが強い。
 だからこんなにも落ち着かないんだ。

 二か月くらい前から、同居しているばあちゃんがボケ始めた。
 ちょっと物忘れが増えたくらいならこんなにも気にならなかっただろう。
 でもそうじゃないから、おれにとっては大問題なんだ。

「あんたは『ハヤト』かい?」

 これまで間違えられたことは一度もなかったのに、よりによって双子の兄の名で呼ばれるなんて。

「おれはリヒト! 大津理人! ほら、ここ。目の端にほくろがあるだろ?」
「ああ、そうだったね。ごめんごめん」

 しかし何度正してもすぐにおれのことを「ハヤト」と呼ぶ。
 なんでだよ。顔が似てるからって、おれの大嫌いなハヤトと間違えるなっつーの。
 それが嫌で家にいる時間は次第に減っていった。
 
 嫌なことはもう一つある。
 野球部の部長が野上センパイってことだ。

 声がでかくてうるさいし、野球もうまくない。
 なんであの人を部長にしたのか、永江センパイの気が知れない。
 もっとも、その前部長は鬼みたいな人でお世辞にも「普通」とはいいがたかったけど。

 そんなわけで、今のおれには居場所がない。
 毎日がひどくつまらないし、それこそ、なんのために生きているのかわからないとさえ感じている。

 刺激が欲しい……。

 退屈しのぎができれば何でもよかった。
 野球部が大騒ぎになったのは、そう思ってすぐのことだった。

 野上センパイの顔を見たくなくて何日か部活を休んでいたが、「全員集合」と連絡が入り、しぶしぶ足を向ける。
 集まった人数は少なかった。

「……これだけっすか?」
「ああ。全部員が集まっても、ここにいる9人だけだ」
「はあ……」
 センパイも見放されたものですね、と言ってやりたい気持ちを抑える。

「それで、全員集めて何の会議っすか? もしかして、廃部とか?」
「そんなんじゃねえ!」

 冗談で言ったことに本気で怒られる。
 まったく、これだからつまらない。
 しかしセンパイが全く表情を変えないので、こちらも真面目に聞かざるを得なくなった。
 場が静まるのを待ってセンパイが一同を見まわした。

「おれのことで申し訳ないが、みんなにも関係のある話なんだ。
 疑いたくない気持ちもある。けど、だからこそ確かめたい」

「いったい何の話なんです?」

 センパイは一呼吸おいてから、

「……昨日、おれの弟が部の誰かに殴られたらしい。何かの間違いだと信じたいけど、弟を疑うつもりもない。
 もしこの中に手を出した人間がいるとしたら、正直に言ってほしい。
 もちろん、個人的に言ってくれれば構わない」

 この場にいる誰もが動揺した。

「昨日部活さぼったのって、大津と三浦と石川だったよな」

 誰かがぼそっと言った。
 名指しされたおれたちに視線が向けられる。

「お、おれ、犯人扱いされたくないんで、探すの手伝いますよ」
 おれは真っ先に返事をした。
 三浦と石川も同様の返答をした。
 しかし野上センパイは渋い顔をする。

「探してくれるのはありがたい。
 だけど、そうすることで部内の空気を悪くしたくないのが本音かな」

「なぁ、弟君をここに連れてきてさ、教えてもらえばいいんじゃね?
 顔、見てるんだろ?」

 本郷センパイがそういうと、野上センパイは大きなため息を吐いた。

「あのなぁ。そんなことしてまた弟に危害が及んだらどうする?」
「それもそうか……。路教(みちたか)は弟想いなんだな」

 その発言にオレはイラっとした。
 兄が弟を想いやる? そんなのは幻想だ。
 絶対に、ありえない……。

 新学期早々に容疑者の一人と名指しされれば誰でもうんざりする。
 張り切っているのは三年生だけで、おれを含む二年は互いを「暴行犯」のように見るからちっとも練習にならなかった。

 ……野球部にいる意味、あるのかな。

 部内の雰囲気も理由の一つだが、今のおれは自分がどうしたいのかがよくわからなくなってる。
 双子の兄のハヤトが苦手なスポーツでなら勝てるという理由で野球を続けてきたけれど、好きかどうかと言われれば首をかしげてしまうのだ。

  
 もやもやしたまま練習を終えた。
 汗を流したというのにちっともすっきりしていない。
 そしてすぐ家にも帰りたくない。
 おれはどこへ行けばいいのか……。

 頭の中も心も、ざわざわしていた。
 おれがおれでなくなってくみたいで、ものすごく叫びたい気分だった。

【続きはこちらから→ #4 祖母】

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