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小説のモデルになった本屋さんの話

「この前は靴磨きで世界を回ってる若者に、本あげてましたよ」

初めて聞いた時は、目玉が飛び出るかと思った。

その本屋さんは、たまにお客さんに本をあげちゃうことがあるそうだ。(貸すことも笑)

みなさんご存知の通り、本屋さんは本を売って、成り立つ商売。貸すなんて、ましてやあげるなんて……へんてこりんな本屋だ。

もちろん、全員にそんなことをしている訳ではないのだが、まさかまさかの、わたしの目の前でも起こった。

いろどり書房のロゴと、名刺を作ってくださったフリーデザイナーさんと、その本屋さんに行った時のこと。

春に自費出版でZINEを発売するという彼女の文章を、店主に見せた後の出来事だった。

「いい文章だね。おすすめの本があるから少し待ってて」

店主はバックヤードから、一冊の本を持って来た。

「これ、非売品だから売れないんだよね。だから、あげる」

彼女はポカーンとしていた。

(ほんまやった……)

「ここ、本屋なのにたまに本をあげちゃう本屋なんです。変ですよね」
と言った私の眉毛は八の字になっていたと思う。


この本を読んだ、その人の未来に、何かいいことがあればいいと純粋に思ったから渡しているように見えた。

得してナンボ。稼いでナンボ。の世界に身を置いていた私から見ると、常軌を逸していた。

そんなことしていたら、潰れるのでは?
しかし、もう20年目を迎えている。

"商売とはなんぞや"

目の前の一人を大切にする。
損得に左右されていない。
人と本との出逢いを純粋に楽しんでいるような気がした。

東京の読書のすすめさんと似た空気感を感じた。


そう言えば、私が書店員になりたてで、自分で企画した読書会を運営することになった時、泣きそうになりながら相談しに行ったことを思い出した。

会社から1人1,650円(税込)という単行本が買える価格で読書会を開催するように指示があった。

未熟な自分が、数日でその価値を提供できるレベルの読書会を主催する自信がなかった。怖かった。

先輩は忙しそうで、相談出来なかったので、信頼できる店主に聞きにいこうと思ったのだ。

店主は、コーヒーを淹れながら、読書会について時間を掛けて丁寧に教えてくれた。

「あの……相談しておいてアレなんですが、ある意味ライバルに当たる私に、なんでそこまで丁寧に教えてくれるんですか?」

「ライバルなんて、そんな時代はもう終わりよ。これからは協力し合って書店業界を盛り上げていかないとね」

質問した自分の器の小ささに、穴に入りたくなった。

店主の視野の広さ、器の大きさに、乗り越えてきた壁の大きさを感じた。
きっとここまで来るのは並大抵ではなかったはず。
かっこいいなぁ。

ある本に書いてあった。

これからは競争社会ではなく『協奏社会』になる

この本屋さんは、広告に力を入れている訳ではないのに、全国からお客さんが来て、注文が入る。

人気作家さんが大型書店のサイン会の合間を縫って、ここにサインをしに来る。

口コミが、とある作家さんの耳に入り、小説のモデルになった。

「福」に憑かれた男|サンマーク文庫|喜多川泰

この小説は、ぜひとも読んでみてほしい。

ちなみに、この「福」に憑かれた男、舞台化が決まり、来月から公演が始まる。


そういえば、肝心なお名前をまだ書いてませんでした。

ブックランドフレンズ
店主:こんぶ(河田秀人)さん


ぜひ、足を運んでみてください。
会って、話してみたら、おもしろいことが起こるかも。

なんたって「福」に憑かれているお方ですから!

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