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何か新しいことを始めないと、だらけてしまうから|『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』
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ウォルト・ディズニー。
この人物の説明を必要とする人が、世界にどのくらいいるのだろうか。
世界的に有名なミッキーマウスの生みの親であり、世界初のカラー長編アニメーション映画『白雪姫』を作った人物であり、今日の日本にもある、ディズニーランドを作った人物でもある。
本書は伝記作家として初めてディズニー・アーカイブス(※ウォルト・ディズニーとウォルト・ディズニー・カンパニーに関する資料を収集・保存している場所。一般公開はされていない。)に入ることを許可された著者・ニール・ゲイブラーが7年間かけて膨大な資料を徹底的に調べあげ、関係者から綿密な取材を積み重ねて執筆したウォルト・ディズニーの伝記である。
彼の理想郷のモデルとしてあった、 マーセリーンでの少年時代。
アニメーションとの出会い、ミッキー・マウスの誕生。
初の長編アニメーション映画『白雪姫』の制作。
第二次世界大戦の勃発。
アニメーターのストライキ。徴兵。
プロパガンダ映画の制作。その影で行われた『バンビ』の制作。
アニメーション映画から逃げるように没頭した鉄道の世界。
そして、ディズニーランドの建設。
その建設費の為に始めたテレビ番組。
ニューヨーク万博の為のアトラクション制作。
華やかに見えるその偉業の一方で、ヘビースモーカーで、時に精神を病み、身体の不調から逃れる為にアルコールを摂取し続けた、彼の人生の光と闇が詰まった1冊。
ディズニーアーカイブスに入ることを許された伝記作家
著者は ニール・ゲイブラー
ノンフィクション作家・伝記作家。著書「Winchell: Gossip, Power and the Culture of Celebrity」 でタイム誌の年間ノンフィクション最優秀賞を受賞。「An Empire of Their Own; How the Jews Invented Hollywood』でロサンゼルス・タイムズ紙の歴史書賞を 受賞。多数の著書のほかに、ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズなど に寄稿、フォックス・テレビなどにも定期的に出演。現在南カリフォルニア大学の上級研究員。本書ではディズニー家からすべての資料の閲覧を許され、7年間かけて取材・調査にあたる。ロサンゼルス・タイムズから2006年度出版賞・伝記部門大賞を受賞。
訳者は 中谷和男
東京外国語大学フランス語科卒業。NHKに入社し20年間海外特派員。ヨーロッパ・アラブ・アフリカ総局長を最後に、文筆家として独立。訳書に「ダイナスティ」「プロファイリングビジネス」 「ザ・サーチ グーグルが世界を変えた」など多数。
出版社は ダイヤモンド社
発売は 2007年7月
職人、ともアーティストとも違うウォルト・ディズニー
いつかと思っていたら、うっかり読む前に死ぬかもしれない。
そう思って積読から引っ張り出して読んだ、この本。
期待を裏切らず、面白かったのだが、この量の本を家で読むのは難しく、通勤カバンに約半年間入れて読み続けた。
正直、読み終わるのが先か、私の肩が死ぬのが先か、戦々恐々としながら読んだ。
紙で取っておきたい本ではあるが、電子化して欲しい。
さて。私はディズニーファンで、ディズニーファンであるからには読まねばならぬ本があると思っている。
ボブ・トマス著『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』
これは数年前に読んだ。
あと、マーク・エリオット著『闇の王子ディズニー』
これはまだ未読。私の人生の課題はまだ残ってる。
他にも名著と呼ばれるディズニーの書籍はあるのだが、ウォルト・ディズニー自身について書かれたもので有名なのはこの2冊と本書ではないだろうか。
『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』では、みんなが知る“ウォルト・ディズニー”を詳しく書いた、という印象だったが、本書では、その裏側も鋭く切り込んでいる。
本書を読んで1番思ったのは、「ウォルト・ディズニーとは何者だったのか?」である。
彼は、アニメーターではない。
アニメーション監督かと言われても疑問がある。
私の中で、宮崎駿は職人だ。高畑勲はアーティストである。
手塚治虫は…エンターテイナーかな? 多分。
ウォルト・ディズニーは何であったか。
3人にある聡明さはあまり感じられず、どこか子供っぽい悪戯っ子のような印象がある。
宮崎駿のような職人さもなく、高畑勲のようなねちっこいアーティストさもない。
強いて言えば手塚治虫のようなエンターテイナーだろうか。
でも、どこか、この3人にある何かに情熱をぶつける、というよりは身体の内側に巣食う情熱をぶつける場所を求めて、檻の中でイライラしながら唸る獣のような印象だ。
現に、『白雪姫』で成功をおさめたウォルトだったが、『シンデレラ』あたりではもう、やや飽きが見え始めている。
※ちなみに、ウォルト・ディズニーが関わった長編アニメーション映画は全19作品。第二次世界大戦中に作った5作目『バンビ』から12作目『シンデレラ』の間は『ラテン・アメリカの旅』や『三人の騎士』『メロディータイム』など、日本でもやや認識されていない作品が続いている。
ウォルト・ディズニーは落ち着かなかった。『南部の唄」の製作にかかりながらも、「なにか行動し よう」とロイに言い続けた。落ち着きのなさは生まれつきで、「前に向かって進み続けなければ、倒れる」という不安に、いつも取り憑かれていた。
「白雪姫」から「バンビ」まで、これまでの長編映画は成熟と責任の掌握を表していたが、成熟が達 成された今となっては、なにをすればいいのだろうか・・・・・・。
もはや映画製作では燃焼できなくなったエネルギーを消費するためかのように、ウォルトは休みなく各地を飛びまわった。
これで納得出来たのは、ウォルトを語る長編アニメーション映画のメイキングで、『白雪姫』や『バンビ』などの制作風景はよく見かけたのだが、それ以降のは見たことがなかったことである。
この辺から、ウォルトはアニメーション映画の制作から逃れるように鉄道模型から鉄道そのものに嵌まり込み、やがてそれがディズニーランドへと繋がる。
ウォルトは一日中パークにとどまって問題を 処理し、一二月になっても週末もパークを離れなかった。「ここに来れば、スタジオでの退屈な映画 作りから逃れられて、心からほっとできる。これがわたしにとっての本当のアミューズメントなんだ。 リラックスできるのはここだけだ」とウォルトは側近に漏らしていた。
私の思うウォルト・ディズニーの傑作は最初の『白雪姫』、クラシック音楽との融合である『ファンタジア』、アトラクション『カルーセル・オブ・プログレス』(※本書では『進歩のメリーゴーラウンド』)『ホール・オブ・プレジデンツ』、アニメーションと実写の融合『メリー・ポピンズ』だと思っている。
このアトラクション『ホール・オブ・プレジデンツ』と日本にもある『イッツ・ア・スモールワールド』はニューヨーク万博にあったものをディズニーランドに持ってきたことは知っていたが、『カルーセル・オブ・プログレス』も万博で発表していたものとは知らなかった。
中でも、『カルーセル・オブ・プログレス』はウォルトもかなりの熱量だったのがわかる。
アートディレクターのディック・アーバインは、「進歩のメリーゴーラウンド」が基本的にはGE の商品の紹介にすぎないと、この企画には反対だった。これに対してウォルトは、一九世紀末から一 九六〇年代にかけての電気の進歩の模様を家族で楽しむことができ、これまでにない規模でオーディ オ・アニマトロニクスを経験する機会にもなり、さらに独創的で大がかりなエンターテインメントだと、「進歩のメリー ゴーラウンド」の企画には熱心だった。
『ホール・オブ・プレジデンツ』と『カルーセル・オブ・プログレス』は日本にはないので私もYouTubeでしか見たことがないが、動画でも素晴らしさは充分に伝わってくる。
『ホール・オブ・プレジデンツ』
『カルーセル・オブ・プログレス』
ちなみに、この『カルーセル・オブ・プログレス』は岡田斗司夫もお好きなようで。
ディズニーランド建設費の為に、テレビ放送をし、アトラクションの企画に熱中し、ウォルトは映画から遠ざかる。
しかし、最後は『メリー・ポピンズ』へと戻ってきた。
この辺は、『ウォルト・ディズニーの約束』として映画化されている。
んー、実際の原作者トラヴァースはもっと曲者っぽい印象もあるけども。
アニメーションと実写の融合が素晴らしい『メリー・ポピンズ』ではあるが、この映画、音楽も歴代作品の中でも1番と言っていい程素晴らしい。
中でも『2ペンスを鳩に』はウォルトのお気に入りだったと有名である。
歳を取り、今までの無理が一気に襲ってくるようにウォルトは病に蝕まれていく。
年をとるにつれてウォルトは、物思いにふけることが多くなった。
一週間の仕事が終わる金曜日になると、時々シャーマン兄弟をオフィスに呼んで、将来のことを話 した。それから窓のところに歩いていき、外に視線を投げながら、兄弟に「メリー・ポピンズ」の唄 「ニペンスを鳩に」を歌うように頼んだ。この唄はシャーマン兄弟が作曲したもので、セントポール 寺院の外で老婆が「ニペンス、ニペンス、ひと袋二ペンス」と歌いながら、鳩にやるパンくずの袋を売る一場面のものだった。
この曲を聴きながら、何を思ったのだろうか。
何かに取り憑かれたように生きたエンターテイメントの帝王ウォルト・ディズニー。
うん。彼は職人でも、アーティストでもなく“魔法使いの弟子”だったのかもしれない。
やがて魔法使いの弟子は自分がかけた魔法を止める術を知らず、好奇心の代償に海のようになった波に巻き込まれていく。
彼の華やかな功績とは裏腹に、心の中はいつも少年期を過ごしたマーセリーンというユートピアを思い描いていたんだろうか。
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