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生き残るのは大きなものでも強いものでもない。変化していくものだ。|『成熟スイッチ』

「ふぇー、林真理子が日大の理事長?!」

いつだって、林真理子は世の中をあっと驚かすことをする。

『ルンルンを買っておうちに帰ろう』からのバラエティ番組出演期は存じ上げないのだが、その後の『不機嫌な果実』のヒット、ananで連載したエッセイの『美女入門』、大河ドラマの原作になった『西郷どん!』。

直木賞作家だと思っていたら直木賞の選考委員になっていたし、紫綬褒章を受賞していたし。

大御所の作家になった……と、思っていたらの、日大の理事長である。
相変わらずパワフル。

この本は、『美女入門』で女性の美とは何かを説き、『野心のすすめ』で夢との向き合い方を説いた林真理子が、老いとの向き合い方を説いた本である。


説明、いる?

著者は 林真理子
説明、いる? ってレベルの方である(笑)。
本書も発売と同時に話題になっていたし。
一応、本書にあるプロフィールを抜粋しておくと

林真理子(はやしまりこ)
一九五四年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒 業後、コピーライターとして活躍。一九八二年エッ セイ集「ルンルンを買っておうちに帰ろう」がベスト セラーとなる。一九八六年「最終便に間に合えば」 「京都まで」で第九十四回直木賞を受賞。一九九五 年「白蓮れんれん』で第八回柴田錬三郎賞、一九九 八年『みんなの秘密』で第三十二回吉川英治文学 賞、二〇一三年 『アスクレピオスの愛人』で第二十回 島清恋愛文学賞を受賞。『葡萄が目にしみる」「不機 嫌な果実」「美女入門」「下流の宴」「野心のすすめ』 『愉楽にて』 『小説8050』 『李王家の縁談』『奇跡』 など著書多数。『西郷どん!」は二〇一八年のNHK 大河ドラマ原作になった。同年紫綬褒章受章。二〇 二〇年には週刊文春での連載エッセイが「同一雑 誌におけるエッセイの最多掲載回数」としてギネス 世界記録に認定。同年第六十八回菊池寛賞受賞。 二〇三二年七月に日本大学理事長に就任。同年 第四回野間出版文化賞受賞。

『成熟スイッチ』

これでもか、という話題作と経歴。
彼女のエッセイが面白いとされるのは、この立ち位置ならではの華やかな交友関係も一因だと思う。

容姿や本人のキャラクターで見落とされがちかもしれないが、いわゆる“リア充”な女性なのである。

出版社は 講談社

掲載誌・レーベルは 講談社現代新書

発売は 2022年11月


少し説教臭くも感じる本作

大ヒットした前作、『野心のすすめ』はパワフルな内容だったのに比べ、本作はやや説教臭くも感じる。

元々のキャピキャピ(死語?)した性格に加えて、富も地位もあるんだから、さもありなん、か。

そして、作家ですからね。
アクが強いのは当たり前。
しかも相手は小説家という職業の方々が出ては消え、という中で定期的にヒット作を出し、生き残ってきた方である。

本書では“どう歳を重ねていくか”、“どう振る舞うべきか”ということが中心に書かれている。

マナー本には載っていないマナーでこそ、人と差がつくのです。

『成熟スイッチ』

「女は六十歳からよ。六十を過ぎてから、すごく自由になってくる。体力は落ちるけど、『こんな可能性もある』『こんな考え方もある』と、視野が広がるから生きやすくなるのよ」

『成熟スイッチ』

若い人と話しながら相手の顔の肌つやを見ていると、つい自分まで若い気になってしまうことに注意しなければなりません。自分で自分の顔は見えませんから……。

『成熟スイッチ』

その一方で、林真理子のエッセイの楽しみである華やかな交友関係の話もしっかりある。

いつも会話の天才だと思って感心するのが新潮社の有名編集者の中瀬ゆかりさん。
中瀬さんとは仲よくさせてもらっていますが、彼女は自虐ネタの入れ方が抜群に上手い。 
中瀬さんと郷ひろみさんのコンサートに行ったことがあって、終了後に一緒にラーメンを食べていた時、彼女は思い詰めたようにこう言いました。「ひろみさんて本当にカッコいいですよねー。わたし、ひろみさんの前で裸にならなきゃいけなくなったら自害します」 
自害するなら脱がなければいいじゃん、と思いながら、すごく面白くてかわいくて爆笑しました。

『成熟スイッチ』

出た!私の大好きな新潮社出版部部長、中瀬ゆかりさん。
ひろみの前で裸になる機会はそうないと思うんですけど、やっぱり面白い。
色んな方の本に中瀬さんの話が出てくるけど、この方が書いたものもいずれ読んでみたい。

ふるまいが素敵なお金持ちは多いですが、秋元さんはその筆頭です。お店の隅の方でみんなの話をニコニコしながら聞いていて、たまにとても面白いことを言う。「オレがご馳走してやってるんだ!」という押し付けがましさが微塵もなく、自慢話も一切しない。若い人をいつも中に入れて、若い人の食欲を楽しんでいる感じ。「サラッとご馳走してくれる」というのでしょうか。

『成熟スイッチ』

秋元康さんは、こういうところからも歌詞の種を拾っているのだろうか。
以前、何かで“マーケティングはしない”というのを聞いたことがある。
それでいて、ドキッとするような歌詞を書くのは、人の機微に敏感なんだろう。

最近の若い作家の生態について、
「吉祥寺あたりに住んで、朝はちょっとランニングして仕事したあと、昼はパスタを自分で茹でて食べて、午後は読書して、夜は居酒屋に行って同年代の編集者と飲む」 
と言ったり書いたりしていたら、朝井リョウさんが、
「あれって僕のことですか?」 
と笑っていました。

『成熟スイッチ』

林センセイ……朝井リョウさんのことお好きなんですね。
少し前に週刊文春『夜ふけのなわとび』でも朝井リョウさんの事、書いてましたよね。
朝井リョウさんの著作を読んだことはないのですが、お写真を見たらシュッとしていらっしゃる……。

ただ、そんな楽しい話だけではなく。
“瀬戸内寂聴さん「お別れの会」での献杯の挨拶”では

でも先生のおっしゃった最大のホラはこの言葉です。
「真理子さん、作家っていうのは死んだらね、次の年には本屋から本が消えちゃって、忘れ去られるものなのよ。作家ってそういうものなの」 
と私に何度もおっしゃったことがあります。 
でも先生、それはデタラメでした。今、先生の御本は売れていて、そして先生のドキュメンタリー映画も作られている。そして先生の展覧会にはたくさんの人が来ると思います。今また、寂聴ブームが起こっております。私はあの世で先生におめにかかることがあったら、「先生、先生の言ったあの言葉はホラでした。違いました」と申し上げたいと思っております。

『成熟スイッチ』

瀬戸内寂聴さんのこざっぱり、というか、諦めの良い、というか割り切った感じの言葉と、林真理子さんのスパイスというか、ちょっとした意地の悪さを含みながら綺麗にまとめあげる手腕は、やっぱり素晴らしい。

今回は随分と長くなってしまいましたが、おそらく私と同じ40代から上の方には、自分の体験と重なって見えるもの、これからの漠然とした不安をちょっと軽くしてくれるものが見つかるのではないでしょうか。


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かおり
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