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娯楽も“効率良く消化する”時代|新書『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』
映画やアニメを早送りで観る人がいる。
しかも、それは仕事や勉強の為に期限があるからではなく、娯楽として観ているはずのものに。
そんな“違和感”から筆者である稲田豊史氏は現代の若者たちが置かれた状況を分析する。
倍速視聴はオタクやマニアと呼ばれる人の中には一定数存在はしていた。
たとえば1990年代や2000年代当時に倍速視聴していたのは、いわゆるマニア気質の人間だけだった。〝量〟をこなすことがアイデンティティになっている、好事家たち特有の、特殊な視聴スタイルだったはずだ。
しかし、現在の倍速視聴はそれとも状況が異なると言う。
森永氏によれば、昔と今とでは倍速視聴の性質が違う。新たな〝目的〟が出現しているという。 「昔の人が早送りしていたのは、自分のためですよね。コンテンツが大好きな人が、限られた時間でたくさん作品を観て、自分を満足させるため。だけど今の若者は、コミュニティで自分が息をしやすくするため、追いつけている自分に安心するために早送りしています。
一つの要因はSNSの普及だ。
現代の若者たちは仲間と常時“繋がって”しまっている。
そこまでして「知る」必要はあるのか。陳氏は言う。 「いわゆる情強、情報強者としての優越感が根っこにあるのでは。内容をちゃんと理解していなくても、『観た』という事実さえあれば批判する資格は得られますから」 知っていたほうがマウントは取れる。「マウントを取られる前に取りたい」が、早送りをする人たちのメンタリティの中にある。そして、「知っている」だけでいいのであれば、内容は大体把握していればいい。微に入り細を穿つ、作品を隅々まで味わい尽くすような鑑賞は必要ないのだ。
そしてサブスクリプションの登場による“コンテンツ”の供給過多だ。
毎月の決済手続きさえ必要としない月額料金自動引落とし、かつ「一定範囲内の作品を1ヶ月間自由に観られる権利」という無形物の売買に際しては、カネを払っているという感覚が希薄になる。結果、買ったものを大切にしない。ぞんざいに扱ってもそれほど抵抗感をおぼえない。
変わってしまった娯楽を取り巻く環境の先に何があるのか。
倍速視聴をしてまでもコンテンツを消化しようとする心理はどこにあるのか。
そんな疑問を一つずつ紐解いているのが本書だ。
セーラームーン世代の社会論を書いた人
著者は稲田豊史。
ライター、コラムニスト、編集者、漫画原作者として活動している。
デビュー作は『セーラームーン世代の社会論』。
出版社は光文社。
レーベルは光文社新書。
買わせるタイトルが上手い人
正直、この感想を書くまで『セーラームーン世代の社会論』の筆者とは気づかなかった。
なるほど、今回の著作といい、フックをかけるのが上手い方のようだ。
ただ、本書をオジサン(もしくはオバサン)が「最近の若者は作品を早送りして見るなんてけしからん」と満足させるだけの内容と切り捨ててしまうには勿体ない。
常時SNSで繋がっているためにプロフィール欄を埋める為に“オタク”を求める人たち。
オタクは「忌み嫌われる対象」から「奇人として嗤われる存在」となり、「個性のひとつとしてカジュアルに名乗れる」時代を経た後、敬意を払われる対象とさえなった。
少し前は「私、オタクなんですー」と言われて面食らった方もいるだろう。
(そしてその“オタク”としての底の浅さにも驚いただろう)
しかし、現在では“カジュアルに名乗れる時代”も終わっているようだ。
SNSで自分の〝上位互換〟の人をすぐに見つけられちゃうから、そのジャンルで勝てないと思ったらすぐ諦めちゃうんですよ。
別にその“好きなもの”を突き詰めたいワケじゃない。
そして“オタク”を名乗っても、すぐに自分よりすごい相手が出てきてしまう。
「Z世代の子たちにとって今のTwitterは、『もう私たちのメディアじゃない』んですよ。〝論破〟したいおじさんたちがウヨウヨいるから」(ゆめめ氏)
ちょっと耳が痛い話だ。
悪意がなくても「オタクなんです」と自分の好きなジャンルを言われたら、嬉しくなって語り尽くした結果、踏み抜いてしまったオジサン、オバサンもいるだろう。
なぜ、そんなに急いで多くのコンテンツを消化しなければならないのか、については下記のように分析されている。
現在ではカルチャーシーンから多数派(メジャー)が消えてしまった。
私たちは親世代が大学生だった時に比べて、学校が出席にとても厳しくなりました。金銭的な問題でアルバイトに時間を割く子も増えましたし、卒業後の奨学金の返済を考えて、早い段階でインターンやボランティアなど就職活動に時間を割く子も少なくありません。それがマジョリティだと思います。
コンテンツの供給過多に加えて、可処分時間の減少。
友人との会話についていくために膨大な情報を短時間で把握する。
ただ、本書の最後には「情報処理が早くなったのではないか?」ということも書かれている。
彼らは時代に忙殺されていく存在なのか、はたまた新たな能力を持った新人類なのか。
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