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読書ログ:多様性の科学 多様性を人生に活かすヒント
マシュー・サイドの「失敗の科学」が非常に面白かったので、彼の次シリーズである「多様性の科学」も期待高めで読みましたが、その期待を超える面白さ!
すっかりマシュー・サイドのファンになりました。
多様性が人をより賢く、強くさせることを様々な事例を通して検証しています。
①多様性があり、かつ強い個人を集めるのが最善
D&Iが叫ばれる中、組織の多様性を高める動きは活発ですが、「多様性がある」「強い」個人が集まると1番強いチームになるというのがポイント。
多様性があっても弱い個人だと意味がないし、強い個人でも多様性がないと意味がありません。
走るなどの、シンプルタスクには、強い個人が最適。リレーするなら、ボルトが4人いるのが一番強い。
でも現実の複雑な問題に対する問題解決は、同じ専門家が複数にいても仕方がない。天才が世にいても、同じモデルで考えて同じ失敗をしてしまうのです。
ただし面白いことに、多様性に富むチームの成果が上がるのは確実なのですが、メンバーの感覚としては多様性が富んだチームでディスカッションするよりも、類似メンバーでディスカッションする方が心地良いらしいです。やはり人間は自分が似た集団に属するのが楽なのですね。
私もつい自分の似た人たちの集団に属してしまうけど、ただただ心地よさだけを求めるのではなく、違いから学ぶ時間を取り入れたいとその態度を反省。
多様な人々を揃えることで、一つの事実に対する多面的な視点を持つことができるのですね。
②多様性を保つ難しさ
多くの組織が多様性を高めようとしているが、注意点はあまり強すぎるリーダーをおかないこと。
強すぎるリーダーがいると、他のメンバーがその強すぎる思考にどんどんに通ってしまうため、最初にあったはずの多様性は失われる。これが強すぎるリーダーや強すぎる組織風土の問題のようです。
また支配的なリーダーだと、多様性が生かされません。他者の意見を聞くリーダーではないと多様性のメリットが使えないので、どのようなリーダーを置くかが多様性をもつ組織運営の鍵になります。
③イノベーションに多様性は欠かせない
賢さと社交性を比較する実験が非常に面白いです。
天才族とネットワーク族という仮の集団を設定した実験です。
ネットワーク族より1000倍賢い(1000倍イノベーションを起こしやすい)天才族と、天才族より10倍社交的なネットワーク族の、どちらがイノベーションを多く起こしやすいかシュミレーションしてみます。
賢さには1000倍もの差があり、社交性は10倍しか差がないにもかかわらず、イノベーションを起こす確率は、天才族は18%、ネットワーク族は99.9%という大差になるのです。
イノベーションに、いかにネットワークが重要な役割を担うかというのが数字でわかる研究結果となっています。
また、起業家やノーベル賞受賞者には、自身が移民またはその親が移民の人の割合がかなり高い。
それは住んでいる社会とは異なる視点を自然に持っているからのようです。
移民であることの不利を感じることも多いので、移民の私には嬉しい調査結果。
さらにシリコンバレーが世界的に最もイノベーションを起こす場所となったのは、そのネットワークが理由となっています。
シリコンバレーには、組織内にとどまらず、情報共有できる場所が至る所にあります。
ワゴン・ホイール、シェ・イヴォンヌなどのバーやカフェで、組織を超えた新たなテクノロジーに関する情報共有が頻繁になされていることがその強さの源泉になっているのです。
単純な賢さよりも、異なる視点を持つ人々との人間関係の方が重要であることを指し示す社会現象となっています。
④多様性を自分の人生に取り込むための3つのポイント
- 無意識のバイアスを取り除く
誰にも無意識の偏見があるので、自分の常識を疑う機会を持つ。それが集合知を高めるきっかけとなる。
その後で、適切に多様性を拡げる行動をとる必要がある。
- 影の理事会
重要な戦略や決断に承認を得るために、無意識のうちに決断者の好みにそったものの見方や、昔ながらの慣習の枠内でしか物事を考えられなくなることがある。それを影の理事会と呼んでいる。
若い人材、新たな視点の意見を、異なるものとして排除するのではなく、影の理事会を疑うきっかけとする。
- 与える姿勢
GIVEする人が最も成功するとは良く言われることですが、自身のネットワークを形成するために、自身の知識や創造的なアイデアを人と共有しようという姿勢でいることが大きな見返りをもたらす。
この他にも、エコーチェンバー現象による白人至上主義者が、多様性を持つグループと信頼を構築し、そのグループとの議論を通じ徐々に自分の信念を変えていく話など、紹介しきれないけど、興味深い事例がたくさん。
人間の強さとは、自分とは異なる過去や現在の他人から学べることであると感じさせてくれる、今月一番おすすめの一冊。