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#604 雄弁家を求めているのではない〜キケロへの手紙〜

 修辞学とは、日本語で弁論術、雄弁術、説得術、レトリックのことで、弁論・演説・説得の技術に関する学問分野です。古代ローマの雄弁家キケロは、偉大な雄弁家として国家の危機を救うなどして活躍しました。

 今日のスピーチやディベートにおいても、キケロの弁論技法は参考にされ、政治家や弁護士など、説得力を必要とする職業に大きな影響を与えていると言えます。

 現代において、言語化能力が大事とされています。言語化は本来、相手との意思疎通を図るための技術の1つでしかありません。しかしながら、論破王なる言葉の流行に代表されるように、キケロ的技術は、何かこう「相手を打ち負かす」ことに焦点をあてたものとして捉えられる傾向にあります。

 先日行われた都知事選の後、各局のマスメディアに出演したある候補者の応答が議論を呼び起こしています。相手を自分の有利な土俵に引きずり込み、論破することを目的とした弁論術は、多数決を背景とした独裁者的な様相を呈している感じが個人的には見受けられます。それは下手をするとデマゴーグ(煽動者)である危険性がある。

 キケロは、自身の言語的豊かさと、高度な修辞技法や論理的構成を基盤に、人々の感情や倫理観に訴えることで、その名声を獲得しました。しかしながら、その部分的な技術を、自分の「独善的正義」によって他者を攻撃することに使う人たちも出現していることに注意を払わなければなりません。

 私たちは決して雄弁な人を求めているのではなく、民衆のための理念を持っている人を求めているのです。

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