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谷の入り口のジョージの古いオートバイ

薪作り

庭のケヤキの木陰に、小さなテーブルと小さな折りたたみ式のイスを並べる。日向と日陰で数度は気温が違う。風が吹くとさらに涼しい。そこにどっかとチェーンソーを置いて、目立てをする。

真夏に薪を作っておくとよく乾く。ここのところ、ストックしてある間伐材なんかを、チェーンソーで適切なサイズにカットする作業に忙しい。ストックといっても山に転がしてあるだけだけれど。

この、丸太を薪ストーブ用に短くカットすることを、一般的に「玉切りを作る」とか「玉切りをする」などと言う。僕らの周りでは玉切りをしてできたものを「タンコロ」と呼ぶ。

タンコロ。見た目からして、かなり正確に表現された名称であるように感じる。おそらく地域的なものではなく、全国各地でもタンコロと呼ばれているのではないだろうか。以前、南の方の人がタンコロと言っていた。

今日もチェーンソーを研いでタンコロを作る。

谷の入り口のジョージ

頭上のケヤキの枝に飛んできたセミが「ジジ、ジ」といったような歯切れのわるい音を出して鳴いている。沢の向こうの月見草がゆれている。高く育った積乱雲が太陽の光で輝いている。夕立ちがくるだろうか。

山の小道のほうから「ドッドド」というエンジンの音が聞こえてきた。谷の入り口のジョージのオートバイだ。街に出かけるのだろう。

谷の入り口から街に続く道を行かず、わざわざ遠回りの山の小道を使うのだ。街につづく道は、ずっと日向で暑い。山の小道は日陰がおおく涼しいので、オートバイで走るのにとてもよい。

谷の入り口のジョージは、いつもツナギを着てトラッカーキャップを後ろ前に被っている。青や赤や黒、きれいだったり汚れていたり穴が空いていたり。とにかくいつでもツナギだ。

いつだったか、どこかのじいさんの葬式の時には、さすがのジョージも喪服を着ていた。しかし、なぜか頭を金髪に染めてやって来たので、誰かが「どうした」と聞いたら「似合うかな」などと言って照れくさそうに笑っていた。

みんなは「妙なやつだ、わはは」とからかっていた。僕は初めてツナギとトラッカーキャップ以外の服装を見たので少し感心した。

ジョージはいつも谷の入り口の工場にいる。工場というには小さく、少し大きなガレージのように見える。そこで何かの機械をバラバラにしたり、組み立てたりしている。

ジョージは古いアメリカのオートバイに乗っている。飾り気は一切なくシンプルだが、とてもかっこいいオートバイだ。維持は大変そうだが、いつも調子よさそうに走っているので、丁寧に整備しているのだろう。

薪作りは続く

よく陽があたる場所にタンコロを積んでおく。すぐに割って薪にしてしまいたいが、畑の手入れもしなくてはならない。山にはまだ丸太のストックが転がっているので、それらも早めに運んでこよう。

木陰に座ってのどを潤していると、山の小道のほうから「ドッドド」というエンジンの音が近づいてくる。オートバイから降りて来たジョージは「暑いね」と言って、ソーダ味のアイスキャンディーをくれた。

スウェディッシュトーチを作ってみたい、というので適当なタンコロをひとつみつくろって渡した。形のよいタンコロをオートバイのうしろにくくり付けながらジョージは「今日も夕立が来そうだね。涼しくなってよいのだけどシートの革に雨水が染みてしまうんだ」とオートバイを指差した。

ソーダ味のアイスキャンディーを食べながら、手を振ってジョージを見送った。


薪作りや夏の山暮らしの様子。

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