六話 ミステリートレイン
班長たちは新たに部下にした新兵たちに命じ、四列縦隊を作らせた。行進隊形して、前を行く輸送司令に続かせたのだ。
浅井は隊列の中を行進しながら、もし馬見塚がいたら解(ほど)けたゲートルを引き摺って歩いているだろうと想像した。
「いなくてよかった」
彼のためを思えばこそ、そう思えた。
馬見塚はあの古井戸の底にいた。遺体となって。
発見の知らせは、すでに新兵たちに伝わっていた。
隊列は営門を出ると右折して、國鉄佐倉駅に向かった。沿道の家々から主婦が現れ、日の丸の小旗を持って振ってくれる。佐倉連隊(東部六十四部隊)が前線に新兵を送り出すことを知っているのだ。
佐倉駅に近づく。駅からかなり離れた引込線路の上に、白い煙を吐き出す蒸気機関車を先頭にして、窓に遮蔽幕を下ろした三、四十輌の客車が連なっている。浅井ら新兵を運ぶ列車だろう。
新兵たちは若さゆえ悲壮感とは無縁。まるで修学旅行にでも行くような気分でいる。
㐂々(きき)として各班長の指揮下、各客輌に乗り込む。遮蔽窓を開けることは禁じられていたが、皆車内で差し入れの甘味品を出し合って食べ、すっかり浮かれていた。
佐倉を出発した列車はどこにも停まらず走り続け、最初に停車したのが品川駅だった。
驚いたことに駅では大勢の男女がホームで待ち構え、遮蔽窓から中を覗いて自分の知る新兵を探し回っている。彼ら彼女らは、この隠密列車が何時何分どのホームに停まるかを知っているのだ。軍人の移動は防諜秘密なのだが、多くの人が友人知人の新兵を見つけ、言葉を交わしたり、差し入れをしているは意外だった。
品川駅を出た列車は以後一切停まらず一昼夜西に走り続けた。外を窺えないから見当もつかないが、博多に向かっているようだった。