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平日のコストコ

先日、平日のコストコに行った。人の上に人が折り重なって買い物している、人間ミルフィーユ状態の休日のコストコしか知らない僕には、快適に買い物ができる平日のコストコは、異世界レベルの衝撃であった。

そもそも、駐車場の段階から衝撃は始まっていた。道路で並ぶことなく、駐車場に入っても車は対流しておらず、加えて駐車場もちらほら空いているところが、目に入ってくる。普段大渋滞をかき分けて、空いたところにガメツく車を忍ばせるのがデフォルトであることを考えると、別店舗かと思える快適さである。

加えて店に入っても、カートを引いていても誰かにぶつかりかけることもなければ、そもそもみんなしゃべりながら楽しそうに買い物をしているではないか。普段マリオカートくらいぶつかり合って、我先にロティサリーチキンを奪い合っている店とは思えない、快適な店内なのである。

中でも一番驚きだったのが、試食だ。そもそも、休日コストコの試食コーナー程、治安が悪いところはない。おそらくどの地域のコストコでも、その地域の中で最も治安が悪い場所は、コストコの試食コーナーだといって過言ではないだろう。

我先に食べ物に飛びつき、大人子供関係なく見境なく取り合うあの空間は、芥川龍之介の羅生門の場末感すら感じさせる、極限の治安空間ということは、皆様のイメージとも近いだろう。酢を飲むのに長蛇の列ができているときは、驚きで眼球が飛び出るかと思ったほどだ。

そんなコストコの試食コーナーだが、なんと平日はちゃんと試食コーナーの機能を維持しているのである。治安が悪くないのだ。読者の皆様の、疑心暗鬼な気持ちも分かる。信じるか信じないかは、あなた次第です。

だが、試食コーナーでちゃんと試食をして買い物ができるのである。並んでいても数人で、ぼーっと歩いている僕のような人間にも、つまようじが差し出されるのだ。群がる子供はおらず、試食のおばちゃんもわざわざ僕のもとによってきてくれて、カツオのタタキを渡してくれたのである。


「カツオのタタキでーす。」


こんな声、休日のコストコで聞いたことがあるだろうか?

「おかあさん!!!あれ食べたい!!!!」と泣き叫ぶ子供以外、コストコでは試食にありつけないというのは、都市伝説だったのである。



そして僕もカツオのタタキをもらった。コストコのカツオのタタキは、生臭さはなく、藁焼きの香ばしさが相まってとてもおいしい。初めての試食に、少しテンションが上がりながら、買おうかどうしようかと迷っていると、僕の後ろにおばさんとそのお母さんらしきおばあさんが、二人で買い物をしていた。

「あ、試食やってるわ。」

どうもおばさんが試食を見つけた様子だった。試食のおばさんも、食べてくれる人を探している様子だったので、目が合ったのかおばさんは一人で試食の方に近づいて行った。

「なんやろね、試食。」

おばあさんがいうと、おばさんは近づきながら言った。

「サーモンやって。とってくるわ。」


サーモンにしては、色味が悪くないか?

普段何を食べているんや?


まぁよく見えなかっただけだろう。僕はそれほど気にもしないで、買い物を続けていた。おばさんとおばあさんは、まだ僕の後ろにいて「うんうん…」とか「おいしいね」とか話を続けている。

二人で「どうしようかねぇ…」なんていっているのが聞こえる。僕も食べてみて、おいしいと思ったので、気持ちはすごくわかる。買おうか、買うまいか、どうしようかなというところだろう。そしておばさんは言った。


「美味しいサーモンやったね。」



美味しかったなら、よかった。




このおばさんは、平日のコストコに来なければ、この先一生このおいしいサーモンを食べる事なんて出来なかっただろう。このおばさんが、次にサーモンを食べるとき、サーモンにがっかりしてしまわないかが少し心配になりながら、カゴに入ったカツオのタタキを僕はにやにやしながら見つめるだけでございました。

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