〈JAZZお茶の間ヴューイング〉まきみちるインタヴュー【2020.2 144】
■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、60年代を代表するアイドル歌手・まきみちるのインタビューです。
intoxicate 144
歌を捨てず、温めてきた愛唱歌をJAZZ に包めて
interview&text:末次安里
槇みちるの大ヒット盤《若いってすばらしい》が発売されたのは1966年4月。翌月、南ベトナムでは焼身自殺が相次ぎ、中国では文化大革命が、6月にはビートルズが来日し、じぶんは12歳だった。激動下で潔く言い切る歌のタイトルが、躍動する軽妙な旋律が小6の少年の心にも刺さった。わが人生において最初に出遭った箴言なのでは、とさえ想う。作詞:安井かずみ/作曲:宮川泰のコンビ作と知るのは随分後のこと、歌手名とブラウン管越しの歌唱スマイルが時々思い出されたが「彼女の消息」は終ぞ知らぬままに令和を迎えた。「私は芸能界に向いていない…」と1970 年に第一線の歌手活動を引退し、「それでも歌いたい」と裏方に。歌唱担当したCM ソングは2000曲に上り、バックコーラスの仕事も岩崎宏美《ロマンス》や山口百恵《しなやかに歌って》、PL《モンスター》等と数知れず。10代からジャズを愛し、「なかでもシナトラが一番大好きな」まきみちるは2006年、エリック・ミヤシロ率いるビッグ・バンドとシナトラ作品集も出していた。知らぬはあの日の少年ばかり也だが…取材に際し、折々の時期の稀少な歌唱動画を検索鑑賞して驚いたのが「眼の輝き」の変わらなさだ。齢に左右されず「歌う歓び」が目元に表れている、彼女が単なる”消えた一発屋” ではなかった何よりの証しだろう。
選曲センスから個人史が透視できる新譜。「私の中でケニー・バロンの名前が思い浮かんだ瞬間から始まった」構想10年の悲願企画であり、「そのまさかが成就した」渾身の一枚だ。冒頭を飾る《ラブ・スコール》は「WORKSHY のボーナストラックで知った」という点がアニメ世代との違いだが、「渋谷のタワレコに5時間くらい、腰が痛くなるまでいる事もある」と笑う彼女の、旺盛な好奇心を物語ってもいる。かの大ヒット曲のリメイク収録を避けた理由は「宮川さんのオリジナル・アレンジ等の構成を触りたくないから」だが、「シナトラも持ち歌を一切変えずに歌い続けた」姿勢への共感も伺える。代わりに宮川自身が「五指に入る一曲」と自賛した沢田研二の《君をのせて》を収めた。山上路夫が新たに詞を綴った《河のゆくえ》、その原曲は辺見マリ(作詞:安井かずみ/作曲:村井邦彦)の代表作《経験》。さらに《打ち明けて》は正真正銘、まきの為に山上/村井の黄金コンビが書き下ろし、「このアルバムを作る、最も大きなきっかけとなった」珠
玉品だ。「どの曲も美しい日本語詞と旋律が作り出す独特の“ 間” があり、その意味を理解しているかのようなケニー・バロンの演奏ぶりが何とも切なげで素晴らしい」と、10年越しの成就を素直に歓ぶまちみちる。生きる(歌う)ってすばらしい、そう思える名盤だ。
『マイ・ソングス・フロム・ニューヨーク』
まきみちる
[OTTAVA records OTTAVA10001] UHQCD 〈高音質〉
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