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〈J-POPお茶の間ヴューイング〉角銅真実インタヴュー【2020.2 144】

■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、角銅真実(かくどう まなみ)のインタビューです。

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intoxicate 144


角銅真実a

©Tatsuya Hirota

気鋭の総合音楽家による無二の歌もの

interview&text:松村正人

 以下のお話は昨年暮れにうかがった。したがって私は年を跨いで原稿を書いたのは、取材するそばから文字にはならないからである。たとえばインタヴュー記事なら、話すひとがきて、聞き手がおり、そのひとはたいがい書き手をかねていて、しあがった原稿がさいわいにも強面な編集者のおメガネにかなえば、デザイナー氏がレイアウトしたデータを印刷所が紙に刷り、運送屋さんが運んでくる、それまでにこえなければならない時間も距離もある。そのようにして彼女の声があなたに届くとき、しかしそこに彼女はいない。


 角銅真実の『oar』は大意ではそのような主旨の楽曲《December 13》で幕をあける。アルバム自体は彼女にとって3 枚目。前作『Ya Chaika』は2018 年リリースだからお話をうかがったときは前年の作品だったのがいまでは一昨年になった。その1 年前の『時間の上に夢が飛んでいる』が自身の名を冠したはじめてのアルバムだが、角銅真実というちょっと珍しい名前にはcero や古川麦をサポートする打楽器奏者として耳なじみがあった音楽ファンもすくなくなかった。なんとなれば角銅真実はどのような音楽のなかでも職能ではなく存在を閃かせる。そのことで彼女はモノを叩き鳴らす持ち場を離れ、音というものの広大無辺さのなかにふみいっていく。その世界では形式も様式も構造もなくあらゆるものが物質として響き合う、そこから角銅真実は歌を掬いだした。


 「いわゆる歌ではありますが、身のまわりの気になるものを鳴らして自分の音楽にとりいれていくうちに、それが物質だけではなく、ことばもそうやって音楽にとりいれられるんだという楽しさがどんどんでてきました。メロディもそうですが、ことばには奥行きがありますよね。それがメロディとかさなったときにいくつかの意味が生まれることがすごくおもしろい」


 あらかじめ多義的なものとしての歌――この考えの発端になったのは盟友石若駿の〈SONGBOOK〉シリーズをはじめとする他者との協働作業であり、ことに原田知世に歌詞を提供した経験は「自分の書いた歌詞が知らない声、もちろん原田さんの声は知っているんですけど、その声をともなって返ってくるのが不思議だった」角銅真実はそのようなものとして歌をみいだし、3 ヶ月というこれまでにないくらいたっぷりとした制作期間を経て楽曲はアルバムのかたちに実をむすんだ。表題の『oar』は舟を漕ぐオールの意で、私は茨木のり子らが戦後しばらくして創刊した詩誌「櫂かい」の援用かと勘ぐったが、「ear」に似ていてひと目では発音できなさそうなのが気に入った由。飾らない語り口とあいまってなんとも脱力を誘う理由だが、ひとたび『oar』に耳を傾ければ、彼女の歌のオールの立てるさざ波は意図はどうであれ、物理的時間的な距離を超え、聴き手の胸のうちに波及するのがわかる。むろんそのときに彼女の主体はそこにはない。不在であるがゆえに聴くものは彼女の歌の真意を糺せないが、それこそが受けとる自由だと角銅真実はいう。このようにして歌は日々の暮らしによりそうというより紛れこむ、やがて歌は聴くもののなかで変わりゆき、そのひと固有の歌として音楽を聴くことの無二性を呼び寄せる。無二であるとは似るものがないことであり、較べるべき対象をもたないがゆえに“ 独り” である。ワンチームなる文言が国是ばりにはびこる昨今にあって独りであることはまことに分がわるいが、「私は音楽を聴いて独りの気持ちになるのがすごく好きなんです」と述べる角銅真実はその発言を裏書きするように『oar』で浅川マキとフィッシュマンズのカヴァーをとりあげてもいる。どちらも私がかつてライヴの場でいいようもなく孤独であると感じた音楽家たちの楽曲を、角銅真実は培った人脈を駆使しみずからの歌に読み換える。石若駿、西田修大、光永渉、マーティ・ホロベックら熟達の面々が参加し、旧知の網守将平も数曲で弦の譜面を書いたサウンドの細部は記号的な連想を惹起するようでいて、そのじつ音そのものの即物性にとどまっている、かそけき物音から流れるような旋律まで、ひとつひとつの
音とことばがとても涼やかにゆきかっている。


■角銅真実 (manami kakudo)プロフィール
長崎県出身。東京藝術大学卒業。マリンバをはじめとする様々な打楽器、自身の声、言葉、身の回りのあらゆるものを用いて、音楽といたずらを紡いでいる。各種CM への楽曲提供のほか、ceroのサポートメンバーとしても活躍。アートプロジェクトの作品制作など、演奏だけにとどまらない自由な表現活動を国内外で展開する。


角銅真実j

『oar』
角銅真実(vo, g, perc)
[ユニバーサルミュージック UCCJ-2176]


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