CLASSICAL新譜レビュー 後編【2020.8 147】献呈/ブルックナー: 交響曲第7 番(ハース版)/resilience/アラシュ・サファイアン: ディス・イズ・(ノット)・ベートーヴェンほか
2020年8月20日発刊のintoxicate 147、お茶の間レビュー掲載の
CLASSICALの新譜8枚をご紹介!
※CLASSICAL新譜レビュー前編【2020.8 147】はこちら
intoxicate 147
【J-CLASSICAL】
献呈
新納洋介(p)
[ALM Records ALCD-9209]
ピアニスト新納洋介の4年ぶりのニューアルバム。ショパンの即興曲全4 曲にラフマニノフの前奏曲集作品23から6曲、クライスラー=ラフマニノフ《愛の悲しみ》《愛の喜び》、シューマン=リスト《献呈》などを加えたロマンの薫りあふれる1枚。アルバムタイトルの 《献呈》の瑞々しいタッチ、しなやかで気品漂う歌わせ方に接し、すぐ他の曲も聴きたくなった。とかく挑みかかる体の演奏が多いラフマニノフ編のクライスラーはゆとりあるテクニックで洒落たエレガンスを覗かせるし、ショパンの即興曲は細部の動きを丁寧に解きほぐして名曲を清新に奏でる。成熟した表現の良さを感じる大人の音楽家。 (渋谷店 中川直)
【J-CLASSICAL】
ブルックナー: 交響曲第7 番(ハース版)
西脇義訓(指揮)デア・リング東京オーケストラ
[fine NF NF-65809]SACD ハイブリッド〈高音質〉
ブルックナーの第7は、鑑賞する、というより、その響きにゆったりと浸る、という言葉が相応しい交響曲である。この作品の他に類を見ない空間的、時間的な拡がりを満喫させてくれる演奏は意外に少ない。このCDはチェロ8名を最前列に並べ、その背後の弦楽器や管楽器の奏者は立って演奏する、という独自の配置で演奏されている。指揮者の西脇はスコアと楽員個々の音楽性を信じ、簡単な合図を送るだけで楽員たちが互いに聴き合うことを要求し、まったく自然な音楽の流れを生み出すことに成功。その響きは楽員の自発性と独自配置により実に豊かな拡がりをもち、作品の醍醐味をとことん堪能させてくれる。 (板倉重雄)
【J-CLASSICAL】
ベートーヴェン: 交響曲全集 (6 回目)(1996-1997)<タワーレコード限定>
岡坊久美子(S)竹本節子(A)林誠(T)田中勉(Br)朝比奈隆( 指揮)
大阪フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー合唱団
[Octavia Records × TOWER RECORDS OVEP00009] 6CD SACD ハイブリッド〈高音質〉
1996年~ 1997年にザ・シンフォニー・ホールでライヴ録音されたベートーヴェンチクルス。短期集中、同一ホール、同一の録音システムのため曲同士の出来にむらがなく、雄大で強靭な安定感のある演奏内容。オーケストラもまとまっており土台のしっかりしたサウンドを奏でる。第3番で木管を倍にする代わりに第1楽章コーダのいわゆる「金管上げ」を止める(ちなみに最晩年のチクルスでは「金管上げ」していた)などスコアにあまり手を加えない姿勢が際立つ。本音源のSACDハイブリッド盤によるボックス化は初めて。価格面でもお買い得になったので一つの時代の記録として手元に置く価値は十分ある。 (渋谷店 中川直)
【J-CLASSICAL】
resilience
木村モモ(g)
[202102010810]
新型コロナウイルスの流行によりパタリと演奏の機会が無くなった。「こんな時こそ作品を生み出そう!」と意気込み最初に着手した曲が《ola》。「もう二度と会えないかもしれない。それが大袈裟じゃない時代に、何のために生きるのか、進むのか、悩むのか。そして弾くのか」。それに気づいた時に一気に進展したという。同時進行で作曲していた《Mr. umbrella》はスリーフィンガー調のシンプルな曲であるが、“一期一会”を表現したいという共通点がある。今作は、「この時代に生きる使命と誇りと感謝を胸中に沸かせるならば、どんな困難を乗り越えていけるはずだ」というメッセージが詰まった作品となっている。(梅田大阪マルビル店 塩谷恵理)
【OPERA&VOCAL】
シネマ・パラディーゾ
キャサリン・ジェンキンス(MS)
[Decca/ ユニバーサルミュージック UCCS-1286]
魅惑のメゾ・ソプラノ、ジェンキンスの映画音楽集。《ムーン・リヴァー》等往年の作品、先日逝去したモリコーネの《シネマ・パラディーゾ》始め粒ぞろいの名曲を集めた。同郷のウェールズ出身のルーク・エヴァンスとのデュエットによる《トゥナイト》はとても瑞々しくキュートでエヴァンスのパッションの効いた歌唱とのかけあいが聴きどころ。《戦場のメリークリスマス》は情緒的にしっとりと。『アリー/スター誕生』の《アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン》の様な新しめの曲も上手く歌いこなせるところはさすが。彼女にはいつも聴き手を包み込む艶っぽさと暖かさが漂う。くつろいでお楽しみ下さい。(古川陽子)
【OPERA&VOCAL/MUSICAL】
Enchantée
マリー・オペール
[Warner Classics 9029527247]
近くて遠い感のあるオペラとミュージカル、たいていのレコード店ではその距離を象徴するかのように売場もかけ離れているがそんな距離を縮めてくれるかもしれないのがマリー・オペール。映像作品にもなった2014年のルグランの『 シェルブールの雨傘』では17 歳で主演を務め、ソプラノ歌手のナタリー・デセイとの共演も話題を呼んだ。ミュージカルの名曲を収録したソロデビュー作となる本作ではクラシック界のデセイとミュージカル界の大先輩メリッサ・エリコもゲスト参加している。今年でまだ23歳となるミュージカル界の新星の端正ながらリリカルな歌唱に魅了されること間違いなしのアルバム。(梅田大阪マルビル店 西川智之)
【J-CLASSICAL】
ショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調
舘野泉(p)浦川宜也(vn)弦楽四重奏: 舘野晶子(vn)林瑤子(vn)
白神定典(va)舘野英司(vc)
[LeavesHMO/ ヒビキミュージック HMOC-17852]
1959年春、東京藝術大学の旧奏楽堂でのライヴを、関係者がモノラル録音したオープンテープから初CD化したもの。音質は当時の水準程度だが、当時の日本人演奏のC Dは極めて少なく、その演奏レヴェルの高さを今に伝える貴重な1枚だ。しかも舘野泉は23歳、浦川宜也は18歳という若さである!ショーソンの音楽自体、ロマンティックで官能的で情熱に溢れたものであるが、若い奏者たちは憧れの音楽世界に肉薄しようと熱気に満ちたアンサンブルを繰り広げている。それでいてテンポを走ったり、音色が荒れたりすることなく、作品の旋律美、深淵の闇、果てしない高揚といった多様な魅力を見事に表出して止まない。 (板倉重雄)
【CLASSICAL】
アラシュ・サファイアン: ディス・イズ・(ノット)・ベートーヴェン
セバスティアン・クナウアー(p)チューリヒ室内管弦楽団
[Modern Recordings 5053860729]〈輸入盤〉
作曲家のアラシュ・サファイアンとピアニストのセバスティアン・クナウアーは2016年のアルバム『Uberbach』でバッハのモチーフによる自在なピアノ協奏曲風変奏を創り出し、話題を呼んだ。今回ちょっと刺激的なタイトルのニューアルバムで2人が世に問うのは2020年が生誕250年のベートーヴェンを使った同様の試み。ピアノ・ソナタ第14 番《月光》の第1楽章による幻想的な展開などスリリングであると同時に一種のヒーリング性も感じられる手の込んだ仕上がり。ラストトラックを交響曲第7番の第2楽章のアレンジにしているのがハイセンス。ベートーヴェンが好きというひとにこそ一聴をすすめたいアルバム。 (渋谷店 中川直)
▶前編はこちら!
CLASSICAL新譜レビュー前編【2020.8 147】
【intoxicate SNS】
▲Twitter
https://twitter.com/intoxicate3
▲Facebook
https://www.facebook.com/tower.intoxicate/
▲Instagram
https://www.instagram.com/tower_intoxicate/
▲タワーオンライン(本誌オンライン販売)
https://tower.jp/article/campaign/2013/12/25/03/01