〈CLASSICAL/JAZZお茶の間ヴューイング〉小曽根真インタヴュー
■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された小曽根真インタビュー記事です。
intoxicate 146
©Gildas Bocle
毎年恒例の挑戦的なコンサート『Jazz meets Classic』
自身の作品であるピアノ協奏曲『もがみ』を改訂初演!
text:オヤマダアツシ
4月上旬から毎晩、自宅から約1時間のアットホームなミニライヴを配信し続けて、多くの人たちに幸せな時間をプレゼントしてくれた小曽根真(withパートナーである女優の神野三鈴)。予定していた今年前半のコンサートも次々となくなる中、上野の東京文化会館で毎年開催されてきたチャレンジングなコンサート『Jazz meets Classic』と、「ワークショップ」という名の気軽なトーク& ライヴ『自分で見つける音楽』の開催を待望するファンも多い。特に前者はクラシックのオーケストラ(東京都交響楽団)と共演し、プロコフィエフやバルトークほか本格的なピアノ協奏曲に挑んで、耳の肥えたクラシックのリスナーも唸らせてきたというシリーズだ。
今年は特にスペシャル感が漂う。演奏する曲が小曽根自身が2003年に作曲したピアノ協奏曲『もがみ』であり、オーケストラ・パートを充実させた改訂スコアの初演となるからだ。
「劇作家の井上ひさし先生から直接ご依頼をいただいたのは嬉しかったのですけれど、クラシックの協奏曲は書いたことがないし、オーケストラの楽器についてもほとんど知識なんかないというところからのスタートでしたので大変でした」
しかし2003年、山形で開催された『国民文化祭』の開会式で『もがみ』は初演され、その後も国内外で幾度となく演奏されてきた。さらには小曽根自身も『Jazz meets Classic』などを通じてクラシックへとますます接近。ジャズかクラシックかというボーダーを超越し、一人のミュージシャンとして可能性を広げていったのである。それゆえ『もがみ』というクラシカルなスタイルによるピアノ協奏曲の真価をもう一度このシリーズで問うのは当然であり、聴き手はあらためて作曲家としての豊かな才能を認めることになるだろう。
「今回は信頼できるアメリカの編曲者、ガース・サンダーランド氏にオーケストラ・パートをもう一度見直してもらい、より豊かでカラフルな音になるよう細部を改訂しました。オーケストラのパートはすべての音を記譜しており、コード進行だけで奏者のテクニックやセンスに委ねるジャズの譜面とはまったく事情が異なります。ソロ・ピアノのパートは98%が記譜してあり、こちらもクラシックのスタイルで書かれていますけれど、残りの2%は自由になれるため、ピアニストとしては腕の見せどころになるでしょう」
とはいえ、そこは小曽根作品。ところどころにジャズのテイストを味わえるメロディやパッセージ、コード展開などが散りばめられているのでジャズ・ファンもご安心を。曲は全3楽章で構成されており、第1楽章では山形県を流れる最上川の川下りを、音楽と共に楽しむような趣向が用意されている。やや悲痛な曲調となる第2楽章は、農民たちの貧困や苦痛の歴史に焦点をあてたエレジー風の音楽。そして第3 楽章は開放的な春の訪れ。つまりこの協奏曲は、最上川と大自然、そこに暮らす人々の生命力などをテーマにした讃歌であり、さまざまな映像が浮かぶような作品なのだ。そして曲全体に散りばめられた山形民謡《最上川舟唄》のメロディが、背景にある不屈の精神などを象徴していることにも触れておきたい。
「指揮者のアラン(・ギルバート)と自分の曲を演奏できるのは本当に楽しみです。彼は自分でドラムを叩くほどのジャズ・ファンですけれど、演奏するたびに発見やスリルを感じさせてくれる音楽家ですし、都響の皆さんも音楽に対する反応が鋭い方ばかりなので、今回のコンサートで『もがみ』という作品が大きく成長できるのではないかと信じています」
もしあなたが、クラシック音楽やコンサートの雰囲気にやや抵抗を感じるジャズのリスナーであるなら、その懸念を払拭できるチャンスかもしれない。小曽根真のピアニズムも彼の『もがみ』も、Borderless Musicの精神を気軽に楽しむための扉なのだ。
■小曽根真 (Makoto Ozone)プロフィール
ジャズピアニスト/作曲家。1983年バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム「OZONE」で全世界デビュー。以来、ソロ・ライブをはじめゲイリー・バートン、ブランフォード・マルサリス、パキート・デリベラなど世界的なトッププレイヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド「No Name Horses」を率いてのツアーなど、ジャズの最前線で活躍。2018年3月、ユニバーサル・ミュージックより「ビヨンド・ボーダーズ」と題して、小曽根真の初のクラシックアルバムをリリース。映画音楽など、作曲にも意欲的に取り組み、多彩な才能でジャンルを超え、幅広く活躍を続けている。
【CD】
『ビヨンド・ボーダーズ』
小曽根真(p)アラン・ギルバート(指揮)ニューヨーク・フィルハーモニック
[Decca/ユニバーサルミュージック UCCU-1568]
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