〈JAZZお茶の間ヴューイング〉山中千尋インタヴュー:生誕250周年のベートーヴェンと、生誕100周年の チャーリー・パーカーに学ぶアレンジというジャズの表現(小室敬幸)【2020.6 146】
■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された山中千尋インタビュー記事です。
intoxicate 146
生誕250周年のベートーヴェンと、生誕100周年の チャーリー・パーカーに学ぶアレンジというジャズの表現
interview&text:小室敬幸
コロナ禍の影響で、図らずもアフター・アワーズ(ピアノ、ギター、ベース)のトリオでまず録音を完了。後からドラムスを重ねたという異例の流れで生まれたレコーディングとのことだが、後録りに全く違和感がないのは当然として、このトリオらしい室内楽のような緊密なアンサンブルから繰り出されるリズムを、更にドラムスが引き立てる……そんな絶妙な塩梅が異常なほど心地よいアルバムとなった。タイトルは愛犬のトイプードルの名前に由来するものだという。
「彼女は1歳になるんですけど生命力に溢れてて……。こんな時期だからこそ生きている歓びやポジティブな部分を前面に出したかったんです」
そして今回もアニバーサリー(記念年)にあわせて生誕250周年のベートーヴェンと生誕100周年のチャーリー・パーカーをフィーチャーする。
「ミュージシャンで誰が好きですか? ってよく聴かれるんですけど、選べないですね! リスナーとして色んなものを聴くことによってインスピレーションを得ているので、アニバーサリーという機会があれば、直に自分でアレンジ、演奏して、その中にある本質に少しでも近づければと思っています。お笑いだとモノボケみたいにお題をもとに……という形がありますよね(笑)。自分にお題を課すことで何か新しいものを作るきっかけにしたくて。自分の好きなものだけで凝り固まりたくないんです」
特に山中らしい斬新なアレンジを堪能させてくれるのがベートーヴェン。《悲愴》の第3楽章と《運命》の第1楽章を、ラテン系のリズムで再構築していく。
「もともとは全てベートーヴェンの曲にしようと思っていたぐらいなんですよ。ベートーヴェンってキャッチーなメロディメーカーで、彼の作曲したモチーフ(動機)は、ロックやポップスのリフレインと一緒だと思っているんです。《悲愴》はモントゥーノ、バイオーン、サンバと3つのリズムを使っているんですが、《運命》ではショーロのグルーヴになっていて、移ろいゆく儚さみたいな感じ……途中からはアレック・ワイルダー作曲の《Moon and Sand》を引用しています。どんなに料理しても崩れないような遺産をのこしてくれたベートーヴェンを称賛するアレンジにしています」
そして予想外の転調を繰り返していく《運命》は、コロナ禍の心情を反映したものでもあるという。
「最初はもっとシリアスでかっちりしたアレンジにしようと思っていたんです。でもコロナに感染したり、亡くなったりしたジャズミュージシャンが身近にいたりして、ちょっとしたことで私達の運命は変わってしまうんだなって……。アルバムの最後に収録した《サムデイ・サムウェア》では、いつかどこかでまた違う世界がはじまるんじゃないか?……そんな期待感を込めています」
毎度、おなじみの楽曲を予想もしない方向性から驚きをもって聴かせてくれる山中だが、そのきっかけは何だったのか?
「今は違いますけれど、昔、ジャズの新しい表現は出尽くした……なんて言われていた時代に、ミシェル・ペトルチアーニさんが『アレンジをするっていうのもジャズの表現の大事な要素だ』っていうのをおっしゃっていたインタヴューがあったんです。スタンダードとか、よく知られている曲がどんな風に変わっていくか?っていうのを、どなたが聴いても分かるほど違うものに変えるトランスフォーメーションが、私自身楽しくて! それが大事な表現のコアだなって思うようになっていきました」
しかし、どれほどブッとんだアイデアに基づくアレンジであっても突飛にならず、自然で小気味良い音楽に仕上がるのが山中らしいところであり、本盤最大の魅力といえる。
「気心知れた仲間だからということもありますけど、ニューヨークのミュージシャンは非常にせっかちで、私が書いた譜面をもとにセッションをしていくとサクサクと形になっていくんですよ。私にとっても、エキサイティングで楽しい瞬間ですね」
■山中千尋 (Chihiro Yamanaka)プロフィール
ピアニスト/作編曲家。米メジャー・レーベルのデッカ・レコードとも契約を果たし、全米デビュー。米NBC ラジオ、カーネギーホール、ケネディーセンターで自己のトリオで出演する他、米リンカーンセンターでのジェームス・P・ジョンソン・トリビュート記念コンサートにイーサン・アイバーソン、エリック・ルイスらと ともにソロで出演。またラプソディー・イン・ブルーを東京都交響楽団、NHK 交響楽団、群馬交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団と共演し絶賛を得る。2020新年にはニューヨークアポロシアターでの公演もソールド・アウト。今まさに活動の絶頂期を迎えているピアニスト。
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