BOOK新刊レビュー【2020.2 144】
2020年2月20日発刊のintoxicate 144、お茶の間レビュー掲載のBOOKの新刊7冊をご紹介!
intoxicate 144
①【MUSIC】
ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック
松永良平/著
晶文社
ISBN:9784794971654
ジョナサン・リッチマンやNRBQへの直撃取材、ごく初期のSAKEROCKと星野源との出会いからバンドの解散を見届けるまで、ceroのツアーへの無茶な帯同や坂本慎太郎の海外ライヴの追っかけ、そして金欠……。舞台は高田馬場や高円寺、渋谷、ニューヨークなどなど。平成の30年間に鳴り響いた曲たちをバックに、いくつもの出会いと別れ、笑いと涙と音盤の日々が軽快に綴られていく。そこに通底するのは、音楽へのピュアな愛と「おれがやらなきゃ誰がやる」という理由のない使命感。それこそが松永さんの仕事術であり、プロフェッショナリズムなんだなあ。「おれもやらなきゃ」と思える一冊。(天野龍太郎)
②【NONFICTION-ENTERTAINMENT】
ブードゥーラウンジ
鹿子裕文/著
ナナロク社
ISBN:9704904292921
福岡・北天神に位置するThe Voodoo Lounge。これは同ライブハウスに渦巻いている猥雑なエネルギーと、波瀾万丈な人間模様を記録したドキュメントだ。主役は、はみだし者が集うイヴェント〈 ラウンジサウンズ〉主催でシーンの顔でもあるボギーと、その弟にして不世出の歌うたいのオクムラユウスケ。2人の、愛と笑いと涙と音に溢れた生活、出会いと別れを繰り返す人生の数年間が、そこにいた人間ならではの筆致で描かれている。なにより胸を打つのは、記録者たる著者にとっても再生のストーリーであること。ポップ史には残らない、どこかの街の小さな音楽の場で日々起きていることの尊さを、この本は教えてくれる。 (田中亮太)
③【CULTURE】
チャイナ・ニュージェネレーション
小山ひとみ/著
スモール出版
ISBN:9784905158738
2007年スマートフォン登場と2008年北京オリンピック開催以降、ことに目覚ましい発展を遂げる中国のポップ・カルチャー。その中心を担う約4億人と目される「ミレニアル世代」と呼ばれる1980年頃から2000年初頭に生まれた若者たちに焦点を当てた一冊。ヒップホップ、アイドル、ファッションや映画やドラマを中心に、カルチャーの送り手と受け手双方への筆者のインタビューをもとにした構成が秀逸で、概論的な解説書では決して得られることのない中国カルチャーの実態や、何よりミレニアル世代の若者の生活や考え方といった「現場の声」を肌感覚で感じることができる良書。(高野直人)
④【CINEMA】
誰も必要としていないかもしれない、映画の可能性のために──制作・教育・批評
諏訪敦彦/著
フィルムアート社
ISBN:9784845919130
西島秀俊、柳愛里出演の『2/デュオ』でデビューし、海外の俳優を軸にする『不完全なふたり』『ユキとニナ』等で大きな話題を呼んだ監督・諏訪敦彦の初の単著。諏訪の映画論は知的かつ論理な文体で世評も高く、こういった形でまとめられたのは素晴らしいことだ。また、自分のフィルモグラフィーを語るインタヴュー、バイオグラフィーを語ったエッセイなどが収録されていることにより、監督の全体像をつかみやすくしている。また、諏訪組の俳優ともいえる西島秀俊、三浦友和へのインタヴューも同時収録されていることにより、第三者からの監督像も語られ作家論としても優れている内容だ。(荻原慎介)
⑤【MUSIC】
ジャズ音楽の鑑賞 復刻版 日本初のジャズ評論集
野川香文/著
シンコーミュージック
ISBN:9784401648382
日本のジャズ評論界にとっては月面着陸のような大きな1歩だったのでは、ともいえる日本初のジャズ評論集が復刻。本著が書かれたのは1948年。ジャズ評論家で言えば瀬川昌久さんはまだ24歳、故岩波洋三さんは15歳、今活躍中の評論家諸氏は生まれていない時代。マイルス、エヴァンス、コルトレーンなんて、この時点のジャズ史の中では存在しないに等しく、ディジー・ガレスピーは新人として紹介されている。ビバップ前のスイング・エラがまだまだリアルタイムだった頃に、深く掘り下げられた研究文献としてはかなり貴重で、 “スイート・ジャズ”、“ホット・ジャズ”といった当時の独特のジャンル分けも興味深い。 (馬場雅之)
⑥【MUSIC】
至高の十大指揮者
中川右介/著
角川ソフィア文庫
ISBN:9784044004750
古今東西の大指揮者から10人を選び、そのキャリアと人生をひも解き、何を成したかに迫った歴史ドキュメンタリーです。誰が選ばれているかは皆様が想像したうえで実際に確認して頂くのが面白いでしょう。いわゆる演奏比較評でなく個々の人物像をリアルかつ分かりやすく描き、相互の関係性までさりげなく提示する視点がユニークで「クラシック音楽から見た世界の近現代文化史」としても興味深く読めます。個人的にはミュンシュ、カラヤン、小澤征爾さんにある種の連続的共通項を感じたのが面白かったです。こういった書籍としては珍しく文庫版なので手を伸ばしやすいと思います。(渋谷店 中川直)
⑦【MUSIC】
ジャズの秘境
嶋護/著
DU BOOKS
ISBN:9784866471129
菅野沖彦の全仕事を網羅した一冊『菅野レコーディングバイブル』で知られる嶋護の新著は、ジャズの優秀録音について論じた内容だ。嶋護には『クラシック名録音究極ガイド』『嶋護の一枚』というジャズ以外の録音について語った本が既にあるため、これでかなり俯瞰的かつ横断的に録音について論じたことになる。それにしても本著は素晴らしい内容だ。ポール・デスモンド、ビル・エヴァンス、レイ・ブライアント…多くのジャズの巨人だちの録音とそれにまつわる物語、さらにはルディ・ヴァン=ゲルダーへのインタヴューの翻訳が収録されたりと豪華な内容。菅野沖彦について語った終章は感動的だ。 (荻原慎介)
▶次号のBOOKはこちら!(後日公開)
BOOK新刊レビュー【2020.4 145】
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