〈JAZZお茶の間ヴューイング〉キャンディス・スプリングス(Kandace Springs)インタヴュー【2020.2 144】
■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、SWW・ピアニストのキャンディス・スプリングス(Kandace Springs)のインタビューです。
intoxicate 144
「今の自分をつくりあげた」尊敬する女性ヴォーカリストたちの名曲をカヴァー
interview&text:渡辺亨
キャンディス・スプリングスの『私をつくる歌 〜ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』は、新旧の有名な女性アーティストのレパートリーのカヴァー集。現在の“キャンディス・スプリングス”を形成した曲を、曲ごとにデヴィッド・サンボーンやアヴィシャイ・コーエンなどをゲストに迎えつつ録音したアルバムだ。
「今回カヴァーした曲の大半は、13歳か14歳頃から聴いてきたもの。どの女性も自立していて、独自の物語を持っていて、歌と楽器の両方をこなす人が多い。これらの点で私は彼女たちのことを尊敬しているし、歌唱法の面でも影響を受けたので、一種のトリビュート・アルバムを作ろうと思ったの」
キャンディスは、この新作でロバータ・フラックの《やさしく歌って》を取り上げている。ロバータはデビュー当初、ニーナ・シモンとよく比較された。『Nina Revisited... A Tribute To Nina Simone』の共同制作を務めたローリン・ヒルは、フージーズ時代に《やさしく歌って》をカヴァーしている。また、キャンディスはスタンダードの《エンジェル・アイズ》を、シンガー・ソングライターを志すきっかけだったノラ・ジョーンズと一緒に歌っている。ボニー・レイットの《アイ・キャント・メイク・ユー・ラヴ・ミー》は、彼女がブルーノートのオーディションの際にドン・ウォズの目の前で歌った曲だ。『私をつくる歌〜』はこうした音楽的系譜を汲んだ作品であり、なおかつキャンディスの個人史が色濃く反映されている。
「14歳の頃に父がロバータ・フラックのレコードを買ってきてくれて、それ以来、彼女の歌を何度も繰り返して聴いてきたけど、この間に自分の解釈も変わってきたから、聴くたびに新鮮で、常に影響を受けてきた。《アイ・キャント…》は母の大好きな曲で、私もティーンの頃から一緒にラジオでよく聴いていた。オーディションで歌い終わったとき、『この曲は僕がプロデュースしたんだ』とドン・ウォズに言われて、その時に初めて事実を知ったの(笑)。もし最初からそのことを知ってたら、歌ったかどうか分からない」
シャーデーの《パールズ》は、苦い涙の味がする。80年代に内戦が勃発したソマリアの女性の人生に思いを馳せた曲だからで、一種の祈りのようでもある。
「この曲が初めて自分のカーステレオから流れてきたとき、私は交通渋滞に巻き込まれていたんだけど、気がついたら泣いていた。曲も美しいけど、特に歌詞が胸に刺さり、地球の裏側には苦しんでいる人々がいることを知って色々なことを考えさせられた。ビリー・ホリデイの曲と同じくらいパワフルなメッセージが込められている曲だと思います」
『私をつくる歌 〜ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』
キャンディス・スプリングス
[Blue NoteRecords /ユニバーサル UCCQ-1118]
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