〈CLASSICALお茶の間ヴューイング〉水野蒼生インタヴュー【2020.4 145】
■この記事は…
2020年4月20日発刊のintoxicate 145〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、水野蒼生のインタビューです。
intoxicate 145
“ クラシック” の概念を覆す今年最大の問題作
interview&text:小室敬幸
今年リリースされるあらゆるジャンルのCDのなかで、最大の問題作となるだろう。昨年はラ・フォル・ジュルネTOKYO において、老若男女をクラシックで踊らせまくったクラシカルDJ のAoi Mizuno が、バンドを結成。エレクトリックな弦楽四重奏やベースに、ドラムやダブ(レゲエから派生した過剰なエフェクト)等を加えた現代ならでは編成で、ベートーヴェンの不朽の傑作、交響曲第5番を全楽章演奏しているのだ。
「クラシカルDJ では、部分部分を切り出してミックスしてきたからこそ、ちゃんと1 曲を表現したいという気持ちがずっとあったんです。そしてオーケストラも、現代的にアップデートしたかった!」
そのサウンドは斬新かつ懐かしさも感じられる。
「第1楽章がハードロック、第2楽章は80年代ポップス、第3 楽章はイエスみたいなプログレッシヴ・ロック、第4楽章はジャーニーとかみたいなロック・アンセムですね。だから70 ~ 80年代のロックのイメージがまずあって、その上にシンセサイザーを重ねたり、第3楽章にはブレイクビーツを入れたりして現代的なサウンドに仕上げています」
おそらくベートーヴェンの原曲を聴き慣れているほど抵抗を感じるかもしれない。だが繰り返し聴くことで、オリジナルとは別の魅力が滲みだす。
「出来上がってみると思った以上にパーソナルな作品になりましたね。何か新しいことをやってやろうというよりも、自分で組んだバンドで単に新曲を出したというような気分です。感想は人によって様々になるだろうし、それでいいんだと思います。現代のベートーヴェンはこうじゃなきゃダメだ!という思いで作ったのではなく、これまで聴いてこなかった人たちにもベートーヴェンの曲の面白さを知ってほしいという願いが根底にあるトリビュートアルバムなんです」
もちろんクラシカルDJ としての顔も健在。聴覚障害に悩むベートーヴェンが遺書をしたため、その後革命的な作品を書き上げていく転機の年をテーマにした《1802》と、ベートーヴェン最期の弦楽四重奏曲から曲名を引用した《It Still Must Be》という2曲がアルバムの最初と最後に置かれるのだが、このリミックスを通して、音だけでリスナーはベートーヴェンの生涯を感じられるようになっているのだ。
「これまでザルツブルクで指揮を勉強してきたわけですけれど、最近は自分がクラシックのアーティストではなく、現代を生きる音楽家たちの“One of them”だと思うようになりましたね」
Aoi Mizuno の新譜は、クラシック系アーティストの未来を考えるきっかけにもなりそうだ。
『BEETHOVEN -Must It Be? It Still Must Be-』
水野蒼生
[DG Deutsche Grammophon UCCG-1870]
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