【小さな洋書店の小さな出版活動】vol.1 監修者坂東名誉教授を偲んで
¡Hola!
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。インタースペイン取締役&大学非常勤講師&UNED博士課程大学院生の髙木です。ここ数週間、チームで取り組んでいたお仕事のひとつに弊社の出版物の再販にともなう校正というのがありました。小さな輸入洋書店が独自に教材を編集し出版できるのか?技術的に可能?内容で価値提供できる?で売れるのか?「やってみたらいい」と背中を押してくださり、監修のお言葉をお寄せくださった京都外国語大学名誉教授坂東先生を偲びたいと思います。
自分たちにできるのか?
私たちは、マナンティアル書店というスペインのカトリック書店をルーツに持つ、スペイン語で書かれた洋書を輸入販売している専門書店です。特に、スペイン語教育・学習の分野に力を入れており、スペインの出版社の中でも「外国人のためのスペイン語教育 enseñanza de español para extranjeros ELE」と「第二外国語としてのスペイン語 enseñanza de español como segunda lengua EL2」の専門出版社の代理店として、言語教育の専門家が理論的な枠組みを持って編集した教科書のみを厳選して販売流通するという理念を持った書店として40年以上事業を継続しています。ちなみに、スペインの専門出版社のメンバーは少なくとも大学修士レベルの資格や知見を持ち教員経験も豊富です。つまり、言語教育のプロが教科書や問題集を執筆しています。日本の学習者にもそのような教材を届けるというのが、マナンティアル書店を経営していたシスターたちの理念で、私たちもその理念を継承しています。私たちにとっては、自分たちで教科書や教材を編集して出版するというのは、大きなチャレンジだったのです。
世界基準の教材を作りたいよね
日本で流通しているスペイン語を学ぶための教科書や問題集は、語学教材を主に手掛けている出版社数社のほぼ独占市場です。伝統的に「日本で日本語でスペイン語を学習する」という大前提にたち編纂されているものが多く、スペイン語をはじめとするヨーロッパ言語に共通した指導カリキュラムに沿ったものではないものが多いです。例えば、日本の大学の第二外国語でスペイン語を学んでいる多くの学生が使っている教科書をスペインから来た言語教育の専門家たちにお見せすると、「日本の教科書は、日本語の説明のほうが勉強する目標言語であるスペイン語よりも多いんだね。スペイン語を学ぶ教材なのに!!」とびっくりされることがあります。通常、教材や教科書を書かれる著者は、数百から数千冊を大学の学生用として採用する意思決定権がある大学の有名な先生方(販売予測が立てやすい)であるということが多いのです。弊社では、スペインで毎年行われるスペイン語教育学会にも参加しており、世界中のスペイン語教育の先生方と交流するうちに、日本でだけ通用する教科書だけではなく、そこから一歩踏み出すための教材が必要なのではないかと思うようになりました。ということは、やはり、教材制作は、個々の筆者の経験則にもとづいた内容ではなくなんらかの言語教育の専門家が合意したカリキュラムに準拠するべきだなあということになり、DELE試験合格を目標と定めて、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)、また、インスティテュト・セルバンテスのカリキュラムの中身をよく研究して単語帳を作成てみようかと考えました。世界でスペイン語を学んでいる人達と同じ進度で学習する。世界各地でスペイン語を学ぶ学習者としての連帯感も生まれますね!実際に、日本から留学した方が、カナダから、スロベニアから、アルジェリアからスペイン語圏に留学したとしても共通のカリキュラムだったのでお互いのスペイン語レベルがわかりました!という声も届いています。
「いろいろな人がやったらいいんですよ」背中を押してくださった先生
専門の出版社でもなく大学採用品としての確実な販売予測もない私たちがスペイン語を学ぶための教材を作るというのは(1)技術的にできるのだろうか?(2)内容的に新しい価値を提供できるのだろうか?という2つの疑問への答えを模索することにほかなりませんでした。そこで、当時、京都外国語大学名誉教授であられた坂東省次先生にご相談しました。坂東先生は、我が社がはじめて出版したDELE対策問題集の監修も務めてくださいました。東京へ出張の際には、いつもセルバンテス書店にお立ち寄りくだり、スペインでの言語教育の動向や、私たちのスタッフの様子も気にかけてくださっていた先生でした。「大学教授でもなく伝統的な語学出版社でもない私たちがやってみてもいいんですかねえ」と問いかけた私に先生は、「いろいろな人がやったらいいんですよ。様々なアプローチから日本のスペイン語教育を育てていくためには、新しくやってみようという人が必要ですよ」という言葉をくださいました。本当に背中を押されました。
※この記事の一番上の写真は、坂東先生から書いてくださった暑中見舞いの一部です。いつもこのように心を寄せてくださいましたことに改めて感謝をし、ここに記しておきたいと思います。
読者のみなさまへの感謝
そして完成したのが、ヨーロッパ言語参照基準枠のA1/A2レベルに沿ったこちらの単語帳です。
2014年の発行以来、この本で単語学習をしてくださった多くのスペイン語学習者のみなさまに御礼を申し上げます。そして、第2版から第3版の間に、複数の方からとても丁寧な間違いのご指摘をいただきました。何度も何度もたくさんのスタッフが目を通してチェックしているっつもりでもどうしても間違いが起こってしまう、、、そんな甘い部分を、厳しく叱責するのではなく、時間をとって丁寧な言葉で文章に書いてくださり、それを封書で切手を貼って私たちに届けてくださる。本当にありがたく存じます。この場を借りて深く御礼申し上げます。
次回、vol.2では、具体的にどのような手順でDELE試験の単語帳を編纂していったか、編集印刷業者さまとの協業について詳しく書いてみたいと思います。