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【映画】『きみの色』女同士の共犯関係と暗示された恋愛要素

映画『きみの色』を見てきました。今までにない青春映画でした。

内容に言及しているので、ネタバレ注意


監督の作品履歴

『きみの色』はオリジナルのアニメ映画で、監督は山田尚子さん。

私は見たことがありませんが、よくアニメを見る人には『けいおん!』の監督と言えば通じる著名な方だそうです。

私の見たことのある作品だと、『映画 聲の形』、『リズと青い鳥』でしょうか。『聲の形』は原作の漫画が有名なのと、金曜ロードショーで放送されたこともあって、知っている方が多いと思います。『リズと青い鳥』は吹奏楽部を描いた人気シリーズ『響け!ユーフォニアム』のスピンオフであるのと、Eテレで何度か放送されたこともあるため、知っている人がいるかもしれません。この2作が好きな人にはドンピシャだと思われます。

「雄弁なる脚」の描写

この監督の特徴を挙げるなら、女の子の「脚」へのこだわりです。この監督は、やたらと脚のカットを入れます。複数人の女の子の脚を映して、脚に喋らせているかのような描き方をするくらい、脚へのこだわりが強いです。

先日、山田尚子監督と『君の名は。』で知られる新海誠監督との対談記事を読みました。

この記事でトピックに挙がったのは、やはり脚。さすがは口噛み酒と乳揉み描写の新海誠監督、見事に山田尚子監督の「脚への執着」を喝破していたのです。

僕はとしてはむしろ、山田さんたちの作品を真似している気持ちの方が強いです。たとえばキャラクターが喋っているときに顔じゃなくて足を映すような演出を見て「そこでしか表現できない情感があるんだ」と教えていただき、臆面もなく自分の作品で真似したりしました。(※太字は引用者による)

新海誠監督も指摘しているように、脚カットには「そこでしか表現できない情感」があります。この雄弁なる脚は、本作でも健在です。ピンと来た方は是非、スクリーンで脚をご覧ください。

感想

さて、ここから作品の内容に入ります。繰り返しますが、ネタバレがあるのでご注意を。

あらすじ

あらすじを簡単に解説しておきます。キリスト教系のお嬢様学校に通うトツ子は、同じ学校に通う黒髪美人のきみが気になってドキドキしますが、きみは前触れもなく中退してしまいます。未練のあるトツ子はきみの働く古書店を探し当てたところ、男の子・ルイとも出会い、3人は急遽「バンド」を組むことに。作曲や練習を経て、3人は文化祭本番のライブに臨みます。

サードプレイス

興味深かったのは、バンドの練習がサードプレイスで行われていることです。

トツ子はミッション系の女子校にいますが、きみは中退しており、ルイは離島から古書店に来ていました。彼ら3人は普段所属している場所では誰も顔を合わせない関係なのです。

第1の場所である自宅でもなければ、第2の場所である学校や職場でもない、居心地の良い「第3の場所」をサードプレイスといいますが、彼らがバンドとして集まる離島の教会はまさにそういう場所として機能しています。学生を主人公にしていながら、よくある部活のアニメや学園モノとは対照的です。

なお、アニメが趣味の友人にこの話をしたところ、『ぼっち・ざ・ろっく』という作品がサードプレイスの作品に該当するそうです。同じ学校に所属しているわけではない高校生同士がバンドを組んでいる。この点が『きみの色』と同様であると指摘していました。SNSが普及したので、いま流行っているのでしょうか。

女同士の共犯関係

この作品を見た人は恐らくラストのバンド演奏を一番の見どころだというでしょう。しかし、私にとっては物語の中盤にある「共犯」のシーンが最大の見どころです。

主人公のトツ子は、キリスト教系の女子校で寮生活を送っていますが、ルームメイトの女の子3人が修学旅行で留守にする間に、なんときみを自分の部屋に招き入れて、お泊まり会をしてしまうのです。もちろん、きみは中退していますから、学校にとっては部外者。つまり、きみは不法侵入したことになり、トツ子は不法侵入させたことになります。

このときのお泊まり会は見ていて楽しいです。憧れの女の子と自分の部屋でお菓子を食べたり漫画を読んだりしながら、夜はベッドに寝っ転がって過ごす幸せなひとときのシーンです。もちろん、この状況は共犯関係にある二人によってつくりだされているので、背徳感も相俟って見ているこっちまでドキドキします。

結局、夜間にトイレで出歩く際にバレてしまい、部外者を寮に入れた罰として、トツ子は反省文の提出と奉仕活動を言い渡されます。このとき、当初はトツ子のみが罰を与えられるのですが、部外者で校則の対象外であるはずのきみも、自らの申し出によって奉仕活動に従事することになります。罰までも分かち合うことによって、二人の「共犯関係」は貫徹されるのです。

一方が中退して、同じ学校にいるわけではない二人が、バンドだけではなく共犯関係でもつながって、罰も等しく受けようとする。この関係が、もう本当に素晴らしくて、ラストと同じくらい見返したいシーンです。

ほのめかされた恋愛要素

この映画は女二人と男一人がバンドを組みますが、不思議なほど恋愛は表面には現れてきません。男一人の取り合いになる三角関係を避けるためだったからでしょうか? 確かに、ここで恋愛を描いてしまうと、バンド活動を描くのが難しくなりそうです。

しかし、きみがルイに恋をしていたことをうかがわせる描写はいくつか出てきます。まず、古書店で3人は急遽バンドを組むことになりますが、咄嗟にバンド結成となってきみが承諾したのはなぜでしょうか。

きみが中退する前、トツ子とは特別仲良しだったわけではありません。すでに中退した学校の女の子が自分を訪ねてきて再会した。これだけではバンド結成の提案を受け入れるのは無理があります。

そうなると、きみが突然のバンド結成の提案に乗ったのは、ルイがいたからではないでしょうか。恐らくルイが古書店に来店したのは初めてではありません。何度か店に足を運ぶルイのことがきみは気になっており、そこにトツ子が偶然にもルイとの接近のチャンスを与えてくれた。バンド結成には、きみにとって気になる相手と近づけるメリットがあった。だから、提案をすんなり受け入れることができたのではないでしょうか。

また、最後のシーンでルイは船に乗って、進学のために二人の元を離れてしまいますが、出航した船を遠目に眺めながらトツ子はきみに、このまま別れてしまっていいのかと尋ねます。まるで、きみがルイに恋をしていることを、トツ子が知っているかのような描写です。

もし、きみがルイのことを想っていたのだとすれば、去っていく船に向かってきみが力いっぱい「がんばれー!」と叫ぶシーンには、単なる応援以上の意味が含まれます。それはほとんど愛の告白になってしまうからです。直接的な表現を避けつつ、恋する乙女の情感がこれ以上ないくらいこもった、ひたむきな気持ちを伝えているのです。

まとめ

女同士の共犯関係に、ほのめかされた恋愛要素。ここまで整理して、私自身、二回目以降を見るのが楽しみな作品となりました。皆さんも是非ご覧ください。

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