デンマークの自転車カルチャーを読み解く(調査と体験レポート)
デンマーク滞在中に驚いたのが、自転車人口の数と自転車レーンの充実ぶりでした。背景を調べてみると、環境負荷軽減や景観の改善、運動不足解消(医療費削減)などの効果を見越した民意と政治の動きがありました。現地での実際の体験を交えつつ、自転車という側面からデンマークへの理解を上げられたらなと思います。
前提知識 (事前調査)
基本情報
デンマークでは10人中9人が自転車を所有しており、デンマーク人は平均して1日1.4km自転車に乗ります。また、自転車は10キロ未満の移動の21%、全移動の15%を占めます。(参考)
デンマークのバイクレーン(自転車レーン)の長さは約12,000kmで、首都のコペンハーゲンだけでも約400kmの長さになります。(参考)
面積あたりのバイクレーンの密度を東京と比較すると、コペンハーゲンのバイクレーンは東京の約10倍ほどの密度になるみたいです。(参考)
歴史背景
ざっくり歴史を調べると、以下のような変遷になっていました。
1880年代に自転車が初めて導入されて以降、一時自動車の普及で関心が薄れるもののそこで発生した問題に向き合い、抗議運動などの民意の動きを受けて政治が動き、デンマークの自転車文化が繁栄してきたことがわかりました。(参考)
自転車カルチャーがもたらす効果
自転車カルチャーにより以下のような効果が期待されるようです。(参考)
自転車利用者の方が、寿命が5年間延びる。
自転車利用者の方が、重大な病気にかかる時期が4年遅くなる。
自転車が 20%増えると、自動車は 10%減る。
1kmの自転車走行により、1米ドル以上の得がある
年間9万トンの二酸化炭素の排出を抑えている。
「健康面」「経済面」「環境面」など様々な側面への効果が示されているみたいでした。
また、定性的な面でも、現在はカラフルな建物で有名な観光地であるニューハウンも、1970年代はびっしりと駐車場だったことを考えると、コペンハーゲンの景観や観光業に与えている影響もかなり大きそうだと感じます。(参考)
路上観察
ここからは、コペンハーゲンの路上を観察していて気づいたことを記載していきます。
広いバイクレーン
コペンハーゲンの街中は、日本と比べるとかなり広いバイクレーンが整備されていました。場所によっては車道よりも広いバイクレーンもあり、自転車中心の街という印象が強く残りました。ちなみに基本的な幅は2.2mみたいです(参考)
子供をのせた自転車 (カーゴバイク)
日本ではあまり見かけない、子供用の大きなカゴが前方についている自転車をよく見かけました。日本では子供が乗る場所が後ろについている自転車は見かけますが、デンマークで見かけたこちらの自転車の方が子供はゆったり乗れて快適そうだなと思いました。名前は、カーゴバイクというらしく、コペンハーゲンにあるクリスチャニア自治区で発明されたみたいです。
ロードバイク、キックボードは少ない
自転車大国という話を聞いていたので、本格的なロードバイクに乗っている人が多いのかなとも思っていましたが、実際はママチャリみたいなカジュアルな自転車に乗っている人が多かったです。
また、キックボードもレンタル用に街中に置いてあるのはちらほら見かけましたが、乗ってる人は多くはなかったです。理由を調べてみると、事故の多発により2020年に一度コペンハーゲンでは使用が禁止され、その後再度許可が下りたものの大きな制約があるためみたいでした。(参考)
上半身裸で運転している人も
自分が滞在していた期間が夏だからか、コペンハーゲンの街中を上半身裸で運転している人(おじさん)も多くみられました。日本では上裸だと職質されることもあるみたいなので、デンマークの方が服装の許容度は高いなと思いました。
自転車専用信号
歩行者用の信号とは別に、自転車用の信号も用意されていました。そのため、車用、歩行者用、自転車用と3種類の信号が存在することになり、最初は少し混乱しましたが、徐々に慣れました。また、場所によってはGreenWaveという仕組みにより、サイクリストの動きから信号を調整して流れをスムーズにする技術が導入されているみたいでした。(参考)
結構スピード出てる
自転車はみんな結構スピード出してる場合が多いです。そのため、歩行者はバイクレーンを横切る時はきちんと見渡して渡らないと大事故になるリスクがあるなと思いました。自分も一回衝突しそうになったので大反省しました。
スピードが出てる理由としては、特定の時間帯は上記記載のGreenWaveによって、20km/hの速度で走行すれば市内に入るまでずっと青信号になるように調整されているためというのも背景の一つとしてあると思います。(参考)
充実したレンタサイクル
コペンハーゲン市内では、自分がざっくりみて回った限り、6社のレンタサイクルを見つけることができました。一番よくみたのはDONKEY REPUBLICで、その次にLime、TIER、Bolt。レアだなと思ったのはridemoviやKINTO SHAREあたりかなという印象でした。
各ブランドを少し調べてみると、一番多く見かけたDONKEY REPUBLICはデンマークの企業でした。少し驚いたのは、KINTO SHAREは、トヨタ系の企業(KINTO Mobility)がやっているサービスで、トヨタが車以外のモビリティの可能性についても模索している様子が感じとれて興味深かったです。
レンタサイクル体験メモ
今回、DONKEY REPUBLICを2回ほど試しに利用してみたので、その際の体験について記載したいと思います。初めてアプリを入れて利用してみたのですが、「借りる」→「乗る」→「返す」の体験が驚くほどシンプルでした。
シンプルなレンタル体験 (「借りる」→「乗る」→「返す」)
借りる際は、マップ上で近くの空いている自転車を探し、そこから自転車を予約と支払いをします。プランに関しては、単発で乗るか、24時間で借りるかなど選ぶことができます。そのあとはマップ上に表示されたルートに沿って、自転車の場所に移動します。
自転車に乗る際は、予約した自転車に近づきアプリ上からロック解除ボタンを押すと、自転車側で解除動作が行われ、オレンジのレバーを開けると完全にロックが解除されます。(※ ただ、オレンジのレバーの箇所だけ少しわかりづらくて迷いました。)
返却時は、マップ上で一番近い返却地点を探してそこに移動します。そこでレンタルを終えるボタンを押して自動でロックされたら返却完了です。
環境への貢献を実感させるアプリ画面
利用履歴ページをみると、以下のように、「利用した回数」や「移動距離」と一緒に、「削減したCO2の量」も表示されます。
環境意識が高いデンマーク人(参考)にとって、こういう表記方法は再度自転車を乗るモチベーションを上げる仕掛けになってそうだと感じました。
まとめ
以上、デンマークの自転車カルチャーについて、歴史背景調査から街中の観察、実際の体験を通じて肌感で理解することができました。
歴史背景を読み解くと、一時1950-70年代に自動車が主流になりかけるもそこに生じた問題と向き合い、民意と政治が連動して再度自転車カルチャーが復活し、繁栄していく流れはとてもデンマークらしい動きだなと思いました。街中の観察でも、バイクレーンやGreenWave、カーゴバイクなど様々な取り組みが見られ、そういった一つ一つが自転車カルチャーを下支えしていると感じ興味深かったです。
「こういう暮らしがいいな」という理想に向かって、人々が動き、政治を動かし、アイデアを出して文化を作っていく。デンマークの自転車カルチャーから学ぶことはとても多いなと感じました。
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