モテるダイエット法

躁鬱病になってから、僅か数ヶ月で体重が20㎏増えた。薬の影響もあるだろうが、確実に食べ過ぎが原因だ。ウインナーパンとピーナッツパン、カフェラテのセットを朝昼晩1日3回ご飯の後にスイーツ感覚で食べていた。その後にまた真のスイーツも食べ、寝るまでにスナック菓子、チョコレート、寝る直前にはアイスクリームを食べていた。後は運動する事なく寝ているだけなので、太って当たり前なのだが、自分ではあまり自覚がなく、ある日体重計に乗ると、63㎏が83㎏になっていて驚いた。服のサイズも、MがXLになっていた。だが当時は躁鬱真っ盛りで、体重まで気が回らず、病気と共に体重も一生このままだろうなと思っていた。

それがある日突然本気になった。普段、健康面に全然気を遣ってない自分が痩せようと思い始めたのは、邪な思いからだった。何となく「モテたい」という願望が湧き出して来たのだ。俺は既婚者で、特に誰か良い人がいるとか、狙っている人がいるとかではないのだが、ただ漠然とモテたくなり、モテる為にバンドを始める学生の様に、俺はダイエットを始める事になった。とりあえず間食を止める事とウォーキングの二本柱で行く事にした。

始めると、見る見るうちに体重が落ちて行く。
ウォーキング中に体重で膝を痛める事もあったが、最初の5㎏は割とすぐに減った。その後は少しづつ少しづつ減っていたが、ここでも何度か書いている様に精神科病棟への入院があり、その周辺は記憶も記録もないので、ダイエットを続けていたのかどうかも分からない。退院後の記録によると、それ程体重に変化はないので何となく維持出来ていたのだろう。

その後停滞期があった。いつも通り続けていても、体重が減らなくなった。そこはモテたい気持ちで乗り切らなければならない。家の近くのコンビニに、愛想の良い可愛い女性の店員さんがいる。彼女は誰にでも愛想が良くて、俺だけではなく他の客達(ライバル)にも優しい。だから何だ、それがどうした、お前は別に関係ないじゃないかと言う話だが、そこはモテたい俺にとっては大いに関係があり、彼女と恋敵の存在はとても刺激になった。

俺はPIGGSというアイドルグループのKINCHANが大大大好きだ。PIGGSのライブ後は特典会というのがあって、チェキを撮ったり少し話が出来たりするのだが、俺は恥ずかしくて未だに特典会には行く事が出来ない。遠くからKINCHANを見つめるだけのオタクなのだが、ライブを見に行く前は一応シャワーを浴びて行く。別に何かある訳ではないのだが、一応歯磨きも念入りにして行くし、一応鼻毛のチェックもしていく。一応そうしとかないと、何かあった時には間に合わないので、何もないけれど一応そうしている。その流れで一応体も引き締めていた方がいいだろう、何があるか分からないし、絶対何もないけれど、もしもの時の為に、一応ここは痩せていた方がいいだろうと踏ん張り、停滞期を乗り越えた。

その結果1年で15㎏体重が落ちた。元の63㎏に戻るまであと5㎏だが、元が痩せ過ぎていたので、今くらいが丁度いいのではないだろうか。病気にはずっとやられっぱなしだったが、一矢報いた気分だ。正直うまく行き過ぎて驚いたが、一つもっと驚いた事があった。それは、全然モテないのだ。よく考えてみると、痩せてる時からモテなかった。それが太ったモテない人になり、また痩せてるモテない人に戻っただけだった。元の体重より痩せてみるという方法もあるが、未知数なのでモテる可能性も、よりモテない可能性もある。何をするにしてもモテない寄りなので、止めた方が良さそうだ。

実際モテるモテないは関係なく、「モテたい」という気持ちは人を動かすのに大きな力となる。
モテたい気持ちに突き動かされるなんて、しばらくなかったので、自分にもまだこんな力があるのかと驚いた。そんな気持ちになるのは、病気が落ち着いていたからか、それとも躁に傾いていたからかも知れない。「モテたい」から始まった俺の第二の青春は、前回の青春と同じく甘酸っぱく終わった。

あれから、コンビニの店員さんはいつの間にか辞めていた。ライバル達も心なしか寂しそうだ。15㎏痩せた俺を見せたかったが、俺には妻がいるので、これで良かったのかも知れない。PIGGSのKINCHANは、相変わらず遠くから見つめる日々である。この前も遠くで見つめる為に、大阪から東京まで行って来た。もちろん一応シャワーは浴びて行った。当然だ。

いいなと思ったら応援しよう!