現役猟師の仕事術
夫は会社員をしながら狩猟を行っている。そんな夫の仕事に対する考えをまとめてみた。
対応力が自信に
夫はいつも、対応力の無い人間になりたくないと言っている。対応力は、咄嗟の出来事に対して、どれくらい臨機応変に対応できるのか?という力な訳だが、狩猟を行っている人は、柔軟性を持った対応力が高い人間が多いと思う。
当たり前だが、狩猟は想定外のことが起きやすい。想像以上の獲物が掛かったり、狙った動物ですらなかったり。でも、どんな時も自分の安全を優先しながら、狩猟を遂行しなければいけない。
企業での仕事も、想定外の事は日常茶飯事に起きると思う。なんで自分が・・・そんな思いに駆られることもあるが、気持ちを切り替えて対応することで、評価が上がったりチャンスに繋がることがある。少なくとも、やり遂げれば、自分のスキルとして身につくし自信にも繋がる。
反対に、自分で対応できないことが多ければ多いほど、自信を無くしてチャレンジすることすら恐れてしまう。チャンスを自ら逃してしまう。誰かがフォローはしてくれるかもしれないが、自分自身の成長には繋がらない。
準備は評価に繋がる
対応力は、事前の準備と勉強で、サクッと回避できることがある。
無防備の丸腰では難しいことも、武器と知識があれば対応しやすいので、考えられる準備はしておくに越した事はない。
例えば、狩猟の最終段階では「解体」という作業がある。これは、獲物を捕らえて、自分たちで消費する場合に限って、解体という作業がある。新米猟師にとって、解体まで行けば第一段階として上出来で、ステージ1のゴールとも言える。ところが、初めたばかりの者にとっては、夢を実現させるための遥かに先のゴールに感じる。
だが、自己実現させるためにも、ゴールした時を想像する。すると、何が必要かが見えてくる。夫は、いずれ必要になる道具を揃え、動画や本を見て勉強していた。だから、獲物を捕らえた時に、完璧ではないにしろ、内臓を傷つけることなく綺麗に解体することができた。
一方、夫任せにしていた私は、解体の勉強など一切していなかったので、ぶっつけ本番。夫がいなければ、本当に何もできなかったと思う。これが、会社の同じ新人同士なら、明らかな評価の差になっただろう。
達成のための修正
夫の猟師としての目的は、町のための獣害対策でもなければ、報奨金ゲットでもない。”自分で獲った肉をお弁当に持っていく”ことだった。そのためには、解体は過程に過ぎず、一番の山場は「獲物を捕らえる」ことだろう。
獲物を捕らえるために、まずは山へ行って罠を仕掛けるのだが、猟友会にも入っていない夫の場合、指導してくれる先輩ハンターが付き添ってくれることはない。そのため、我々は動画で、大物を捕らえる百戦錬磨のyoutuber猟師を参考にした。
周りに成功している先輩がいる人は、それを真似することが、一番の目的達成への近道だと思う。若い時は特に、どうしても自分のオリジナルの方法でやり方を模索しがちだが、大抵のことは先人がやっている。だから、素直に成功している人のやり方を真似するのが良い。
社会には、時折結果を出していないにも関わらず、偉そうに先輩面をする人がいる。疑わしい人の助言は、右から左へ受け流すことも大切だ。残念ながら、間違った方法を教える人もいるので、自分で信用できる人を見極めることもポイントである。
そして、自分を過信せず、目的達成のための過程で停滞が続いたなら、変化を付けることも大事だと思う。正しいと思い込んでいたやり方が間違っていることもあれば、やり方が正しいとしても、環境が異なることで結果が出ない場合がある。だから、我々は1週間という期限を設け、結果が出ない場合は、やり方や場所を変え、軌道修正しながら猟を続けた。
100万部ベストセラーのビジネス本を読んだとしても、自分に合わないこともある。だから、何か違うかも?と思ったら、変えてみるのもアリという事だ。
80%の姿勢が長続きのコツ
「仕事のコツ」というお題を読んでいる人は、恐らく真面目な人間なのではなかろうか?自分に厳しいタイプが多いと思う。夫は仕事に対して、もともと完璧主義の人間で、自分にも他人にも厳しかった。ところが、120%で仕事をしていた時代、精神を病んでしまった。何事も程ほどに。いい塩梅という言葉があるように、80%くらいで仕事に向き合うと余裕が生まれる。周りが見えてくる。
120%は一生懸命だけど、視野が狭くなるし、周りが見えなくなるうえ、アソビがないから何かの拍子に大怪我をする。
狩猟も根詰めて獲物を追うと上手くいかない。今日はダメだな。という、いい塩梅での諦めが必要だったりする。それは、自然の中で、命あるものと向き合うからだ。人間社会も同じ。仕事は人間同士が行うものだから、すべて自分の思い通りにはいかない。だから、完璧にやりたいと思っても、時に上手くいかないこともある。それくらいの気持ちでいる方が、案外長続きする。仕事で成功させるための秘訣でもあるのだ。
おかげさまで仕事一本より、狩猟を平行している生活の方が、夫は会社員としても上手く行っている。
継続による成長
狩猟で仕事が出来る人というのは、狙い通りに結果が出せる人だと思う。
百選錬磨の猟師が言った。獲物が偶然掛かった場合、”獲ったじゃなくて獲れた”と考えると。罠を仕掛けて翌日なら、狙い通りに掛かったと言えるが、1週間も経った頃なら、たまたま罠に踏んだと考える方が良い。決して自分に才能があるからではなく、間抜けな動物が油断していたという事なのだ。
銃猟においても、自信がない時は撃たない方が良いとされている。微妙に外して致命傷にならなかった場合、動物にケガを負わせるだけになってしまうからだ。狙い通りに撃てなければ、猟が上手いとは言えないのだ。
では、どうしたら仕事が出来るようになるのか?
それは、経験と継続だ。続けなければ成長しない。経験がなければ学べない。失敗やリスクを恐れてばかりでは、チャレンジする機会が減りチャンスも減る。仕事の効率は、こなすことで模索していけばいい。自分のやり方があるはずだから。仕事のスピードは慣れでアップする。仕事の正確性はミスしやすいポイントを確認するだけ。これらは、すべて経験から成長に結びつくことだと思う。
他力に頼る必要性
猟友会に入らない夫は、自分の技術や知識を磨きたいという思いが強い。どうしてもグループになってしまうと、与えられた役割が少なく、達成への手ごたえを感じにくい。誰かがやってくれるというおごりも出る。それが嫌で単独行動をしている。
ただ、どうしても一人では難しいこともある。まだまだ夫は猟師としての経験値が少ないため、獲物を捕らえてから解体するまでの工程を一人で行うのことが難しい。精神と体力がもたないのだ。そのため、妻である私が共に猟へ参加している。
即戦力になる人材ではない私だが、いないよりはマシなのである。特に、解体は、スピードも重要になるため、夫が一人でチマチマやるよりも、下手であれ、二人でやった方が早いし肉の鮮度が落ちない。
だから、職場の仲間は頼りにした方がいい。頼りなくても、案外任せたらやってくれるかもしれない。