「デザイン組織の拡大」を目指さない
よくインハウスデザインの成功例として「デザイン経営による価値創造」や「デザイン組織を1名から10名に増やして、事業の成長に貢献してます」というような、デザイナーにとって嬉しい話題を耳にします。
僕も少し前までそれを信じていました。しかし、本当にデザイナーは多種多様なスキルを身につけ、事業成長のためにデザイン組織は拡大し続けた方がいいのでしょうか?
この記事では自社の事例を含めて、
デザイン組織が直面する課題と組織を最小化する方法を考察します。
拡大するデザイン組織の課題
事業会社がデザイン組織に投資するためには、デザイン組織が事業成長に貢献していることを可視化する必要があります。それは、リード獲得率だったり、単価向上だったり、利用率や継続率などの数値でしか証明することができません。
しかし、事業成長は戦略・要件・実装などさまざまな影響を受けるため、デザインだけで貢献度を測ることは不可能です。そのため、デザイン組織はデザイン思考を武器に上流へと拡大していきます。
デザイン→要件定義→戦術→戦略→経営と越境していくことで、デザイナーは多種多様なスキルが求められるようになりました。これにより、昔より(越境できる)デザイナーの価値は上がっています。
しかし、デザイナーが多機能化しデザイン組織が拡大していくと1つの課題に直面します。それが、コミュニケーションコストの増加です。
デザイナーだけがフラットに顧客視点になれる
僕はデザイン組織はただ事業成長のために存在するのではなく、もっと先の未来に対してイノベーションを起こす組織だと思っています。
Appleのように短期的な数値目標ではなく「ただ最高の顧客体験を創造すること」を目標として追求することこそが、デザイン組織のあるべき姿です。最高の顧客体験の追求こそがイノベーションを起こし、スタートアップならではの10xの成長を生みます。
デザイナーは可能な限り会社と顧客の中間にいる存在になるべきです。
ビジネスやPdMのように短期的な売上に頭を悩ませるではなく、カスタマーサクセスのように一部の担当顧客のバイアスに晒されるでもなく、未来の事業戦略と顧客体験を高い視座でフラットに見て、深く考えることができる立場です。
このレベルのデザイナーは
新プロダクトのプロトタイプ
既存プロダクトの新機能
既存プロダクトの改善
1〜3すべてのフェーズで、まず最初に最高の顧客体験を追求してデザインします。この理想のデザインは事業を以下のような状態に導きます。
プロダクトチーム全員がワクワクし、はやく実装したくなる
カスタマーサクセスが自信を持って説明できる
セールスが売りたくなる
これがデザイナーのひいてはデザイン組織の本質的な価値です。
現実的な実装は理想のデザインから逆算して、工数や最低限の体験などを考慮してプロダクトチームで議論していきます。
デザイナーは「ただ最高の顧客体験を創造すること」を目標として追求するスキルだけを磨き続けることができます。さらに、これだけにフォーカスするためデザイン組織を無闇に拡大する必要もありません。
なぜなら、コミュニケーションコストが劇的に減るからです。
コニュニケーションコストがボトルネックになる
状況が日々変化するスタートアップにおいて、スピードはもっとも重要な武器になります。そしてコミュニケーションコストは事業スピードに大きな影響を与えます。
あなたは毎日3〜5時間程度のまとまった時間を確保できていますか?
リードデザイナーやシニアデザイナーほど1on1やデザインチーム・ビジネスチームとの定例などでまとまった時間を確保することが難しくなります。
しかし、デザイナーは理想の顧客の体験を追求するのであればまとまった時間を使って深く考えることが必要です。打ち合わせの間の1時間でできることは創造ではなく作業になります。
デザイナーが打ち合わせに疲弊する原因は、PdM領域に染み出すことで起こる社内のコンセンサスへのコミットが大きな要因です。プロダクト開発を推進するには、プロダクトオーナー・Biz・エンジニア・他デザイナーなどさまざまな職種の意見をまとめて一つの方向に進める必要があるからです。
これを回避するには社内の調整は他の職種に任せて、顧客とのコミュニケーションに注力することです。「ただ最高の顧客体験を創造すること」を目標として追求するのであれば、顧客より社内の打ち合わせが多いのはナンセンスです。
自社の事例:優秀なPdMに任せる
僕が所属している「サプライチェーンマネージメントサービスを提供しているResilire(レジリア)」では優秀なPdMによって、この課題を解決できないか模索しています。
レジリアのPdMは3人おり、それぞれ
というプロダクト開発を経験した執行役員レベルの方たちです。
実際に僕が入ってから1年で正社員は3倍になりしたが、PdM3人に対して1人でプロダクトデザイン・ブランドデザイン・コミュニケーションデザインのすべてを担当しています。業務委託もいませんし、外注もしていません。
PdMに戦略・戦術・要件定義と社内へのコンセンサスを任せ、デザイナーはどのフェーズにおいても、最高の顧客体験を創造するためにコミットしていきます。
レジリアはシリーズAが完了したフェーズですが、シリーズBまではプロダクトデザイナー1人でいけそうです。「ただ最高の顧客体験を創造すること」を目標として追求することで、最小限のデザイン組織(1人)で10xの事業成長に挑戦しています。
(ただ、いますぐ転職は考えていないけど、レジリアの事業やデザイン領域に興味がある方はXでご連絡ください!お話ししましょうー。)
最適なデザイン組織は変化していく
これは1人ですべてのデザインを担当できているのは、僕がすごいわけではなく、PdMの3人がめちゃくちゃ優秀なんだ!という気づきから記事にしました。
もちろん、事業フェーズやtoBやtoCなどの事業カテゴリーによってもいいデザイン組織の定義は変わります。ただ、コミュニケーションコストという普遍的な組織の課題に対して、デザイン組織の拡大とデザイナーの多機能化ではなく別の方向もあるという視点で、少しでも参考になれば幸いです。
あとがき:デザイナーからイノベーターへ
海外の有名な広告代理店はアワードを2年間獲得できないデザイナーはリストラされます。もし、事業会社のインハウスデザイナーが「ただ最高の顧客体験を創造すること」を目標として追求するなら、デザイナーの評価は無理やり数値目標を設定するのではなく
顧客体験にイノベーションを起こしたか?
だけを評価の基準にできるかもしれません。