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茶園にハダニが発生! その時、有機農家の選択は

以前(1980年ごろ)、静岡県の有機農業実施1年目の茶栽培農家を、有機農業で茶を栽培している農家とともに訪問したときの出来事です。
茶園にハダニが発生し、今後の対応について検討したいとのことでした。
実施1年目の農家は、どのような選択をされたと思いますか?


重要害虫のハダニが茶園に発生

慣行農業では茶園のハダニは重要害虫とされ、春季(3月ごろ)に発生か所を見つけた場合、初期に薬剤防除をしなければ、茶園全体に被害が広がり、収量、品質の低下を招くとされています。

有機農業実施1年目の農家も、薬剤防除をしなければ収穫は皆無と考えておられ、有機農業の実施を断念するつもりでおられました。
有機農業を始めるにあたり1年目の農家は、先輩有機農家を参考に前年秋に畝間に敷き藁をし、茶園に天敵が棲息しやすい管理を始めておられました。予期せぬハダニの発生は、かなりショックだったようです。

先輩有機農家は、茶園の状況を観察し「これ以上ハダニは広がらないと思う」と言われました。慣行栽培とは異なる環境の変化を観察されたうえでの発言だったと思います。

薬剤で防除するかどうかは、農家の判断です。
茶園土壌の変化などを観察し、その後の対応は実施1年目の農家に委ねました(委ねざるを得なかったのですが)。

ハダニが抑制された茶園

実施1年目の農家は、薬剤を散布しませんでした。
先輩有機農家の言葉を信じ、茶園の収穫皆無でも良いと「賭けた」のかも知れません。
「前年秋からの有機農業への取り組みを無にしたくない」と思ったのかも知れません。

その結果は? 先輩有機農家の予測どおり、ハダニは広がりませんでした。

迷走した台風10号(2024年8月)に学ぶ

この台風は、日本へ近づくにつれ進路が大きく変わり、いつまでも進路が定まらないうえにスピードも遅くなるなど、多くの人がイメージする「台風」とは異なる動きを見せました。
物理現象を完全に再現したコンピュータでも必ず初期値を入力する必要があり、その初期値が微妙に違うとまったく違った結果が生じます。
科学技術が発達しているにも関わらず、台風10号の予想進路が日々異なったのは、進路予想に関わる様々な要因が複雑に絡み合うため、初期値を完全には観測しきれなかったからでしょう。
多種多様な生きものが関与する生態系では、物理現象以上に予測が困難だと思われます。

有機農業は多様な要因が影響しあう環境

慣行農業の農地では、本来多様な生態系をできるだけ単純化・画一化し、病害虫の発生に対し指定した薬剤を使用することで予測可能な技術を採用してきました。

慣行農家は、自治体や農協が作成した防除暦にしたがって農薬を散布し、自らの判断で必要に応じて行うのは稀なことです。
殺ダニ剤を散布している慣行農家に「ハダニがどの程度発生しているのか」を尋ねたことがあります。農家は「ハダニを見たことがない。見つけたら大変なことになる」と。ハダニの有無に関係なく、防除暦にしたがって予防的に農薬を散布していたのです。

1990年ごろ、山梨県のブドウ農家を取材

国が有機農業を勧める現在、有機農業を始めるときに生じるであろう減収のリスクを農家に委ねるのはいかがなものかと思います。
しかし、慣行農業から有機農業への転換期には、ここで紹介したハダニの発生のような事態は、必ずと言ってよいほど起こることが予想されます。

薬剤を散布すれば、農地の状態(とくに、地上部の生物環境)は、単純な状態(作物と病害虫のみの関係)に戻り、有機JAS認証を受けようとする場合も振り出しに戻ります。
このリスクへの対応を通して、農家の観察力が養われる利点もありますが、農業を続けていくためには、可能な限り減収を回避したいものです。

農地生態系を総合的に評価した技術を確定し、リスク回避を

農地の物理性、化学性の評価に比べ、生物環境の評価はこれからです。

農地に病害虫の発生がしても、農地の生物環境の違いでまったく違った結果が見られることは、多くの有機農家が経験していることです。有機農業で栽培された農地には、より複雑な生物環境が形成されているのでしょう。

有機農家の事例に学び、多様な生きものが複雑に絡み合った農地生態系の観察(総合的評価)を通して、農家と都道府県の技術職員がともにそれぞれ地域に適応した栽培技術を確定していくことで、これから有機農業を始めようとする農家のリスク回避に役立つのではないでしょうか。


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