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自然のしくみを栽培に活かす農業を実践 林 重孝さん

千葉県佐倉市で有機農業を実践している林農園・林重孝さん(1954-)が有機農業を始めたきっかけや実践を通して体得された野菜栽培のコツを紹介します。
約10数年前に訪問したとき、林農園では約240aの畑で、約80種類の野菜、豆類、果樹を栽培し、県内の消費者約100軒と契約し、新鮮で安全な野菜を直接届けておられました。


有機農業を始めたきっかけ

先祖代々の農家で、林さんのお父さんは全国から見学者が訪れるほどの篤農家でした。
1977年に就農。家業の手伝いを通して慣行農業に疑問を感じられました。
「本来、食べものは栄養価があって新鮮で美味しくなければならない。そして何よりも、安全であることが大切なはずだ。農薬を使って見た目をよくするのは、少しでも高く売ろうということなのだ」と考えたとき、「このような農業は私が一生かけてする仕事ではない」と思ったと林さん。

就農して3年目に、家での農業を中断し、埼玉県小川町の有機農家、金子美登かねこよしのりさん(1948-2022)のもとで1年間住み込みで研修。
研修当初は、農薬や化学肥料を使わずに農業ができるか半信半疑であったとのこと。実際に有機農業の畑の土に触れ、野菜や作物を育てながら「これからの農業は有機農業しかない、一生かけてする仕事はこれだ」と実感されたそうです。

有機農業を始めた当初は苦労の連続

化学肥料一辺倒で堆肥を使っていない畑に堆肥を施用してもすぐに効果は現れず、しばらくは害虫だらけで収量はほとんどなかったそうです。
「あんな農業をやっていたら、家も財産もなくなってしまう」と近隣の慣行農家。
それでも4~5年すると、天敵も見られるようになり収量が少しずつ高まり、農薬を使わない方が収量が多くなる年もあったそうです。

林農園の野菜栽培のコツ

生きもの同士の共存・共生関係が豊かになると、特定の害虫や病原菌がはびこりにくくなり、健康な作物が育ちます。
生きもの同士の関係が豊かになることは、有機農業でもっとも基本となる考え方です。

〇生きもの同士の豊かな関係を育む健康な土づくり

健康な野菜を育てる一番のポイントは土づくりです。よい土には多種多様の生きものが多く生活しています。土の生きものは土壌団粒の形成に寄与しています。

〇よい堆肥を施す

よい堆肥の材料は植物質を主にします。堆肥は総合肥料と言われるように、微量要素も豊富に含み、水持ちをよくするとともに、水はけもよくしてくれます。

〇適期につくる

適期(旬)に栽培することです。作物には育ちやすい適期があり、無理な早まきや遅まきは、害虫や病気を招きます。

〇輪作を守る

毎年同じ科の作物を同じ場所で続けて作ると、その作物を好む病原菌などが土中で繁殖したり、土壌成分が偏ってよい作物ができなくなることがあります。この連作による害(連作障害)を避けるために、順番に違った作物を栽培します。
畑を区割りして、いろんな作物を組み合わせた輪作が有効です。

〇品種を選ぶ

有機農業に適した味のよい品種を選ぶことも重要です。農薬、化学肥料が使われていなかった以前からの地域の気候に合った在来種、地方種のなかに有機農業に向く品種があります。

〇混植をする

違った作物を一緒に植えることで生育がよくなる組み合わせです。
たとえば、ウリ科の作物とネギを一緒に植えると、ウリ科の病気が発生せず生育がよくなります。

〇少量多品目で危険分散をはかる

危険分散をはかるために多品目を少量栽培します。1種類の野菜をたくさん栽培するより、多種類を少しずつ栽培したほうが、特定の虫や病気が増えにくくなり、たとえ一つの野菜が失敗してもほかの作物で補えます。

〇天敵が棲める畑にする

有機農業を続けると、畑の害虫と天敵のバランスが保たれてきます。
害虫が多少発生しても、被害になる一線を越えなければ気になりません。有機農業を続けて生きもの同士の共存・共生関係が豊かになってくれば、害虫が大発生することは少なくなってきます。

〇バランスを崩さない防除を工夫する

異常天候で害虫が異常繁殖することがあります。その場合は生態系を重視した防除を行います。

〇株間と畝間は広めにする

有機農業では株の間隔は広めにとるのが基本です。野菜の株同士の間隔は人によってまちまちで、それほど厳密でなくても野菜は育ちます。しかし、密植にすると風通しが悪くなり、病気や虫が発生しやすくなります。

消費者と心の通ったおつきあいこそ、農業の原点

千葉県内を中心に消費者約100軒と契約。うち9割は毎週自分で一軒ずつ旬の野菜や卵を配達し、残りは宅配業者に委託しておられます。
野菜は無選別で季節により10~14品目が籠(コンテナ)に入れ、卵や漬物などの加工品、豆などの乾物は注文に応じて加えておられます。
消費者とは単なる物の売り買いの関係ではなくお互いに顔の見える関係にあり、野菜の籠を玄関先に置くときには、うまく調理してくださいという思いで、思わず「お願いします」と言ってしまうそうです。
この野菜で自分は生かされているという意味で「ありがとうございます」と消費者。
「野菜を届け始めたころは、おそらく安全だからという理由で我慢して虫食いの野菜を食べてくれた消費者も、今では『市販の野菜と味が全然違う、コクがあって本当に美味しい』と喜んでもらっています」と林さん。

読売新聞オンライン(2024年9月10日)に、林農園の取り組みが紹介されています。

林農園のある千葉県佐倉市では、オーガニックビレッジ宣言を行い有機農業を推進する取り組みを始めています。

参考図書

林 重孝(2011)『有機農家に教わる もっとおいしい野菜の作り方』社団法人家の光協会.