少し不思議な話~中島たい子著『おふるなボクたち』~
SFを「サイエンスフィクション」ではなく、「少し不思議」と読み替えたのは、マンガ家の故・藤子・F・不二雄先生だ。
彼の場合はマンガだったが、中島たい子著『おふるなボクたち』(光文社文庫、2017年。以下、本書)は短編小説集だ。
本書は、主に週刊宝石に掲載された短編を中心に、タイトルにあるように「ふるいもの」をテーマにした話で構成されているが、掲載時期もまちまちで、一貫したストーリーはない。
時代は現代から近未来、遠い未来と話が進むごとに、時代も遠ざかっていく。これが「サイエンスフィクション」っぽいのだが、そんなに仰々しくない程度のアイテム(中古の一軒家、中古車、おもちゃの二足歩行ロボットなど)に纏わる「少し不思議」な話だ。
ストーリー的にも仰々しいことは起こらず、先の藤子・F・不二雄先生の代表作にたとえると、「秘密道具を出さないドラえもんがいる世界で何も起こらないけれど、でも、未来から来たドラえもんがいることによる違和感は確かにある」という感じ(わかってもらえるだろうか?)。
とはいえ、どの話も皮肉が利いていて読み終わった後に、ニヤリとしてしまう。
いや、「踊るスタジアム」という話に関しては、読み終わる前にニヤリとてしまった。それは、現在(2021年夏)の日本にピッタリだったからだ。
いかほどかの未来。
「オリンピック」ならぬ「ボールンピック」の開催地に決定したバブッタ国の首都カバ・シティ。
バブッタ国の官邸に設けられた「ボールンピック対策本部」に出向いたカバ・シティの知事は大統領に怒鳴られる。
『な、ん、で、選考会のクジにハズレないんだ!』
要するに、この時代、財政難で「ボールンピック」を自国で開催したい国がなく、抽選でバブッタ国が選ばれてしまった、と。
大統領は言う。
『選考会に出るだけで、ハズレる、って形が一番よかったんだよな』
こうぼやきながらも、国民すら心待ちにしていない「ボールンピック」を中止するわけにはいかない事情が、バブッタ国にはある。
『イメージは経済にとって致命傷になります。国のためにも、ここは死ぬ気で開催なさった方が』
そう進言する補佐官の言葉が、何だかバブッタ国という架空の国ではなく、現在の我が国で実際にあったように思えるのは、私の気のせいだろうか?
で、お金がないバブッタ国は、今の「おふるな」スタジアムをそれっぽく見せて誤魔化すために、奇抜なアイデアを思いつく。その顛末は如何に!
…と、本書は、そんな感じで、大仰な「SF」としての荒唐無稽な話ではなく、未来の話であっても、どこか現代の我々の身近なエピソードとして描かれているので、肩の力を抜いて気楽に楽しむことができる。
1話目の「家を盗んだ男」から順番に、様々な時代の人々がその時代のさまざまな「おふるなもの」に翻弄されるエピソードを読み進めて来ると、最終話の「いらない人間」の顛末にアッと驚くことになる。
本書には「なんでも鑑定団」に出てきそうな「お宝」は登場しない。
しかし、一見何の価値もなさそうな「おふるなもの」だからこそ、各物語に登場する市井の人々にとって「かけがえのないもの」になるのであり、全て読み終わる頃には、本書が「かけがえのないもの」になっているのである。