東京五輪女子バスケット銀メダルに想う~深田祐介著『フライング・ラビッツ』より~
2021年夏。
試合を見ながら、何度泣きそうになっただろう。
平均身長176センチの小柄な日本代表チームが、五輪決勝のコートで絶対女王アメリカと対戦しているのだ!
準々決勝・準決勝と劇的な勝利を収めての、堂々の決勝進出だった。
決勝進出を決めた翌日のスポーツ報知誌に掲載された、2020-21シーズンをもって現役を引退した日本代表の「絶対的司令塔」だった吉田亜沙美さんの観戦記の最後に『何より楽しんでほしい。(略)明日は自分たちのバスケットを信じて、今のチームメートとできるバスケットを楽しんでほしい』と書かれており、それを読んだ瞬間、私は何故か泣きそうになってしまった。
そう、バスケットに限らずスポーツは「Have Fun」なのである(「基本的」という意味の英語「Fundamental」もやはり、「Have Fun」だ)。
で、この吉田さんは、気迫のオーラが見えるほど闘志剥き出しでチームを引っ張る「カッコイイ」選手だった。しかし、町田選手は違うタイプで、いい意味で「クール」なイメージである。「クール」というと、NHKの五輪番組に出演されていた原田裕花さんが思い浮かぶが、彼女はどちらかというとバスケットセンス溢れる「天才肌」であり、ちょっと町田選手とは違うと思う。私個人としては、町田選手の身長(165cm)もあって、シャンソン化粧品の黄金期に活躍した元日本代表でもある、村上睦子さんを思い出す。
ところで、五輪関連の死闘といえば忘れてはならない試合がある。
ほとんど諦めに近い空気で始まった試合は、まさかの結末を迎え、後に「仙台の奇跡」と呼ばれることになる。
私も祈るような気持ちでテレビ中継を見ていた一人であり、試合開始前はやはり楠田選手の欠場が大きく影響するだろうと予想していたが、それを覆すスタートとなった。
この薮内選手の活躍は、東京五輪直前に引退したチームの絶対的司令塔・吉田亜沙美選手の後を継いだ、町田選手を彷彿させる。
ところで、プロ化した男子に対し、女子は未だに「実業団チーム」なのだが、このJALラビッツには他社にない大きな特色があった。
その特色について、JALラビッツOGの伊藤美世子さんは『少なくとも私のケースは成功だった』と言う。
1998年4月に入社した薮内選手も『直ちに他の同期入社生とともに客室乗務員の訓練に入』り、『この仕事は自分に合っている』と思う。そこにはバスケット選手という特徴が大きく活かされている。
そして、薮内選手と矢代直美選手の2人が史上初、「現役スチュワーデス」としてアテネ五輪のコートに立った。
さて……
今回の東京五輪でもトム・ホーバスHCの厳しさや選手への愛情などが話題になったが、当時のJALラビッツも同様で、チーム強化策として招聘された韓国バスケット界の実力者である林永甫HCの練習は厳しかった。そして、やはり選手思いだった。
その林HCの指揮の元、JALラビッツは確実に強くなった。そして…
その後、現ENEOSサンフラワーズの一強時代が長く続き、そして迎えた2020-21シーズン・ファイナル。
トヨタ自動車アンデロープスが、ENEOSを下し初の女王に輝いた。
チームの一員であり、日本代表でもある馬瓜エブリン選手が「歴史が変わった」と高らかに宣言した。
そして2021年、五輪においても、女子バスケットは歴史を変える大偉業を成し遂げた。だが、頂点に立ったわけではない。
頂点を目指し、これからも頑張って欲しい。
いちファンとして切に思う。
なお、JALラビッツは親企業である日本航空が経営難に陥り、公的資金を投入することが決まったことにより、2010-11年シーズンをもって廃部となった。
最終戦、ちょうど100点を叩き出して勝利し、まさに100点満点の有終の美を飾った。
薮内夏美さんは、2005-06年シーズンをもって現役を引退し、客室乗務員に専従した後、2007年に日本航空を退社。その後、富士通レッドウェーブ(かつて町田選手が在籍)や日立ハイテク クーガーズの監督を歴任し、2021年4月、女子U19日本代表のヘッドコーチに就任した。
次回のパリ五輪、彼女が育てた選手たちが新たな歴史を刻んでくれることを楽しみにしている。
出典:「飛べ!ラビッツ2004」ー深田祐介著『フライング・ラビッツ 新世紀スチュワーデス物語』(文春文庫、2008年)所収