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弁当の記憶と記録
弁当を食べている人を見ると、ほっこりと優しい気持ちになります。
これは、中学の頃の弁当の記憶が、そうさせているのかもしれません。
共働きで忙しい中、毎日、母は弁当を作ってくれました。子育てをしている今、母には感謝しかありません。
しかし、当時は毎日、弁当箱を開けるたびにドキドキの連続でした。
🥢 母のアジ
弁当箱が開きにくい…、ん?なにか、挟まってる?
蓋を少し開くと、焦げた尻尾のようなものが見える。
弁当箱を開けた瞬間、アジの開きの匂いが、クラス中に広がりました。
隣の席で、弁当を食べている魚屋の息子である友人の寺本くんまでも「くっさっー!」と声を上げる始末。
多感な時期です。帰ってすぐに、母に猛抗議しました。
母は笑いながら「干物はやっぱりだめやった?ごめんねぇー。」とさらりと受け流します。
父は、絵に書いたような亭主関白で、家事をする訳もなく、正社員として働いていた母は、家事に仕事に忙しく、弁当に時間をかける余裕がなかったのです。
そんな事も知らず、姉と一緒になって「もっとおかずをいれてくれ!」と何度もデモ隊のように抗議をしたものです。
当時、母は健康食にはまっていて、食品添加物・着色料・冷凍食品といった類のものを一切使いませんでした。
今考えれば、本当にすごいことです。
アジもいれてみようかな!となるわけですね。
(いや、ならないか……)
一度こうと決めたら決めたら曲げない信念の強さと天然な性格で、母からのサプライズは続きました。
🥢 緑のあれ
友人の寺本くんの弁当は、私の憧れでした。
魚市場の新鮮なエビを使った大きなエビフライ、見た事もない魚の珍味などおかずが、ビッシリ敷き詰められていて、とても豪華なのです。
「寺本くん家みたいな弁当にして欲しい。ふりかけとか小さいハンバーグとか、あと緑のあれ、入れて欲しいねん。あれが、あるだけできっとカラフルに見えるから。」
緑のあれ=バラン
寺本くんの弁当にいつも入っていたバランにまで憧れを抱き、母に提案しました。
「ふりかけなんて身体に悪いし、冷凍食品は使わないよ。寺本君のお母さんは時間あるから作れるんよ。バランいれる暇あったらおかず作るわ。」
と一蹴されました。
その後、さすがに少し不憫に思ったのか、おかずを増やしてくれたり、弁当のいろどりも少し気にしてくれるようになりました。
そんなある日……。
やった。今日はイチゴが入ってる。
高ぶる気持ちを抑えながらゆっくり蓋を開けました。
う、うそだ…。。。
イチゴの隣にピタリと餃子が寄り添っているではないですか。
好きな女の子に彼氏ができたのと同じぐらいのショックを受けました。
寺本くんもさすがに気の毒そうな顔で、「イチゴ臭そうやな。」と小さな声で、下を向いて呟きました。
家に帰ってすぐ
「全て餃子に持っていかれた!緑のやつさえあったらこんな事にはならんかった。イチゴと餃子ってどういう事や。ぉぉぉぉぉおおおおおー」
と激しく抗議しました。
しかし、母は相変わらず…
「いろどりもええし、餃子の後に口サッパリするかなと思ったんやけど。緑のやつやっぱりいるねぇ。ごめんねぇー。」
と何とも言えない笑顔と天然全開で、さらりとかわすのです。
その後「バラン」は我が家で、一度も見たことがなく、フルーツはミイラの如くラップで、グルグル巻きにされていました。
当時は、文句ばかり言って困らせてしまいましたが、無添加で、優しい味の弁当は、このようなサプライズも含めて母なりの愛情が、たくさん詰まっていました。
🥢 弁当作り
そんな私が、今、弁当を作っています。
早起きして弁当を作ってみたら奥さんがとても喜んでくれた事が、弁当作りを始めたきっかけでした。
多くは、夕飯の余り物を使って、おかずを1,2品を作ってご飯にのせるだけですが、毎日、続けることが大変なことがよーくわかります。
1年の弁当の記録。
寺本くん家にはほど遠いな。。
母には申し訳ないことをしたな。。
弁当を作っていると昔の記憶が蘇ってきます。
弁当は、母からの手紙のようなものでした。
「今日も元気だして頑張りや。」
「健康でありますように。」
と温かいメッセージが込められていました。
弁当は、無意識に繋がりを感じることができる日常のささやかな幸せであり、とても豊かなものだと思います。
いつまで続くか分かりませんが、自分なりのメッセージを送り続ける事ができれば、それはとても素敵なことですね。
子どもたちが、大きくなったら作ってあげよう。
もう少し繊細に、たまにはサプライズもありで。
母と奥さんに感謝しながら、今後も楽しく続けていきたいものです。
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