想像力を解き放つ3歳男子成長期
「でない……」
「なに……?まだ座って3秒しか経ってないじゃない?」
「でないの……」
アンパンマンの補助便座に座り、アンパンマンと同じように朗らかな表情の絶賛トイレトレーニング中の3歳次男。
保育園のお友達は結構な割合でパンツを履いているそうだが、息子はまだまだオムツが心地良いようだ。なかなかトイレに足が進まない息子に奥さんが提案した。
「トイレ行ったらウルトラマンのシール貼れるよ!」
「ウルトラマン!」
息子の目がキラリと光る。息子の”推し”はアンパンマンを卒業してウルトラマンとなっていた。これぐらい好き。
このように並べられたヒーローたちは悪役となった息子により、すべて無残になぎ倒されていく。これも我が家のよくある光景。
5人の子どもたちのスキを原動力にやる気を引き出す奥さんの発想には、いつも驚かされる。息子の目にさぞキラキラと映ったであろうシールセット。
まずはトイレに行く動機を作ることが大切。夜になると思い出すように「トイレ!」と言い、入ってすぐ冒頭のやりとりを繰り返す日々が続いた。
最初の方は5分おきに「トイレ!」と言っても、その都度シールを貼らせていたら3日でシートがシールで埋めつくされた。トイレに入るのも慣れてきたので、奥さんと相談して「連続はなし」と言い聞かせる。
それ以降、あまり進歩なく2枚目のシートもシールで埋まりかけていた頃。抱っこして便座にお尻が触れるや否やという瞬間に「出ない…」と言われたことに口が滑り「はぁっ?」と言ってしまった。
「はぁっ?って言わないで!」
3歳息子にめっちゃ叱られる。兄弟の誰かが「はぁっ?」というたびに同じように息子は同じように指摘してくれるのだ。絶対に君が正しい。でも「はぁっ?」案件だぜコレは。
ある日は、「しぃーーーーしぃーーーー」と興奮した猫のような声で私と9歳三女で息子の応援をしていたら、奥さんに「変なことしないでよ」と叱られる。逆の立場だったら絶対出ないよね。よねよね。
またある日は、鍵もせず、私が油断して用を足していると急に息子がドアを開け一部始終を見ていた。
そしてそれが終わると”しゃあなしやで”みたいな表情で「パパもシール貼ってもいいよ」とシールをくれた。泣けてくる。天使かよ。学べや。
そんなこんなで3枚目のシートも半ばに達した夜のこと。トイレから奥さんの叫び声が聞こえた。
「キャー!!出たぁ〜すごーい!!」
嘘だろ。歓喜の声に吸い寄せられるように、三女とトイレに駆けつける。
それはもうワンプッシュ醤油さしのようにポトッ、ポトッというレベルだったが、トイレはドジャースのフリーマンがサヨナラ逆転ホームランを打ったドジャー・スタジアムと同じくらいの熱気に包まれた。
スキの力ってすごい。ずっと想像力を解き放ちイメトレしていたのだ。翌朝。私より少し先に起きた息子がトイレの前にいた。
子ども用椅子に足組んで、何度も日本アカデミー賞獲ってる映画監督みたいな佇まいで座っていた。寝ぼけてるのかと思い……
「何してるの?」と聞くと
「トイレ……」
トイレ待っとったんかぁーい!!
声に引き寄せられ、自然と集まる家族。
キミ、急成長過ぎん?そしてそのベテラン監督のような佇まいは何?
頭の中はクエスチョンだらけだった。便座に座らせた瞬間……
スペシウム光線!!
美しい放物線を描く息子のスペシウム光線を見守り、みんなで歓喜の声をあげる。トイレは前日を上回る熱狂に包まれ、日照りが続いた村にやっと降った雨のように私たちの心を存分に潤した。
すべてウルトラマンと奥さんのおかげ。「次はウルトラマンパンツを履くんだ」と意気込んでいる。
しかしながらこの日以来、一度もトイレで用を足してくれない。今日もダメかと半分諦めながらも朝一でトイレへ連れていく。また便座にお尻が触れた瞬間、「出ない…」と言いだした。
「はぁっ?」
また言ってしまった…!
「はぁっ?って言わないで!」
すごい瞬発力で私を叱ったと同時に豪快な3日ぶりのスペシウム光線。これはもう参った。想像力を解き放つキミの勝ち。シール2枚どうぞ!120枚のウルトラマンシールがなくなる頃にはもっとお兄さんになっているだろう。
子どもの成長は本当に早い。いつか、こんな日の出来事を思い出して奥さんと子どもたちの成長の喜びを分ちあえる日が来るといいなと思う。
その前に「はぁっ?」て言わないで!
と息子に叱られないよう私も想像力を解き放ち成長せねばならない。