駆け出し百人一首(28)待つ宵に更けゆく鐘の声聞けば飽かぬ別れの鳥は物かは(小侍従)

待(ま)つ宵(よひ)に更(ふ)けゆく鐘(かね)の声(こゑ)聞(き)けば飽(あ)かぬ別(わか)れの鳥(とり)は物(もの)かは

新古今和歌集 恋三 1191番

訳: 男を待つ夜に夜が更けていくことを知らせる鐘の声を聞くと、満ち足りずに別れなくてはならない朝を告げる鶏の鳴き声など大したものだろうか、いや、夜の鐘を聞く心境に比べれば、全然辛くない。

When I hear the sound of the bell which tells me that the night goes on, I feel sad and miss you so much. Although every separation in the morning is painful, I hate rather the sound of the bell than cries of chicken.


通い婚の場合、男は夜が明けるか明けないかの頃に帰って行きます。男には公務もありますし、仕方のないことですが、「まだ離れたくない……」となるのが、燃え上がった恋人同士の常。そのことを古文では「飽かぬ別れ」といいます。まだ満足していないのに、別れなくてはならない、と。その頃合いになったことを告げる朝の鶏の鳴き声は、シンデレラの12時の鐘と同じ。恋人達にとっては切ない響きなのです。
ただ、悲しい朝の別れがあるのは、逢えているから。もっと辛いのは、そもそも逢えないことです。当時の社会では、女は男の訪れをじっと待っているしかありません。小侍従は、来ない男を待つ夜の辛さの方が上だと詠んだわけです。
この歌が評判になり、彼女は「待宵の小侍従」と呼ばれるようになりました。


古文単語

飽く:満足する。

文法事項

聞けば:已然形+ば。順接の確定条件(偶然条件)の「聞くと」で訳す。
物かは:係助詞「か」に「は」を重ねて、反語。


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