38-2. 遊戯療法✖️認知行動療法ワークショップ
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1.「認知行動療法に基づく遊戯療法」研修会について
臨床心理iNEXTでは、7月30日(日曜)に「認知行動療法に基づく遊戯療法」の理論と方法を学ぶ「認知行動☆遊戯療法」研修会の実践編として認知行動療法と遊戯療法を組み合わせ、使いこなすためのワークショップを開催します。
支援の現場では、遊戯療法だけ、あるいは認知行動療法だけではなかなか子どもの変化が見られないということがあります。そのような場合、認知行動療法と遊戯療法を組み合わせるアプローチは、事例を理解し、子ども本人や養育者と支援の方向性を共有し、そして現実場面の不安や目標に取り組んでいく時に大変役立ちます。
第1回研修でお伝えしたように、私は組み合わせる方がその子どもにとって良いだろうと判断したとき、認知行動療法と遊戯療法の時間をそれぞれにとって、その両方をプレイルームという場で行います。組み合わせるかどうかの判断には、認知行動療法の見立て方である、ケースフォーミュレーションを活用しています。
そこで、本ワークショップでは、子どもの事例において遊戯療法と認知行動療法のそれぞれの強みを活かす方法について、ワーク形式で学んでいきます。遊戯療法の事例をご経験されている心理職や大学院生を対象に、事例に役立つ認知行動療法のエッセンスとノウハウをお伝えします。以下において、講師の小倉加奈子先生に認知行動療法と遊戯療法を組み合わせるアプローチのエッセンスについてお聞きしたインタビューを掲載します。
2.ケースフォーミュレーションは遊戯療法と認知行動療法をつなぐ土台
[小倉]認知行動療法との組み合わせで行う遊戯療法は、多くの方にとっては、まだ馴染みのない方法だと思います。しかし、実際にやってみると、遊戯療法の強みと認知行動療法の強みを活かすことができ、しかもそれらを合体させると難しいケースでも対応できるようになります。そのために重要となるのがケースフォーミュレーションです。
[下山]遊戯療法と認知行動療法の組み合わせは、異質なものを合体させることで、新たな次元の有効な支援を提供できるようになるということですね。ケースフォーミュレーションは、その組み合わせの土台になりますね。確かに、ケースフォーミュレーションは、心理職と子ども、家族や教師などの関係者が問題理解を共有し、問題解決の活動を一緒に作っていくための地図になります。さらに子どもと、それを取り巻く環境にある資源をつなぎ合わせる設計図にもなりますね。
[小倉]その点で遊戯療法に認知行動療法のケースフォーミュレーションを取り入れることで、子どもと心理職が一緒に問題を解決していく作業ができるようになります。例えば、ケースフォーミュレーションがあることで遊戯療法の支援の方向が決まってきます。
3.ケースフォーミュレーションで介入方針を決めて心理教育素材を見立てる
[下山]ケースフォーミュレーションによって支援の方向が決まってくると、その方向を確かなものにするためにさまざまな心理教育素材を積極的に活用できるようになるかと思います。一緒に行動記録や思考記録などのワークシートを作り、楽しみながら問題解決を目指すこともできるわけですね。
[小倉]遊戯療法のプレイルームには使えるものがたくさんあります。ワークシートをその場で作りながらということも多いですね。また、言葉以外のものを活用することで、子どもたちが理解しやすく、表現しやすくもなります。例えば、「こういうものがあるとするよね」と言いつつミニチュア使ったりすることができます。そして、「色であえて表現すると今の怖い気持ちは何色かな?」と尋ねて気持ちの表現を支援できたりもします。
プレイルームでは、そこにある玩具などの物を別のものに見立てることで色々な支援が可能です。ワークシートを自分たちで作らなくても、そこにあるもので見立てていくことができます。プレイルームにある物は、心理教育や支援のための素材として活用するためにすごく便利ですね。
[下山]その点で認知行動療法と遊戯療法を組み合わせるアプローチの実践では、プレイルームにあるものを活用していくための工夫も必要となりますね。
[小倉]当日は、架空事例を用いて、子どものための心理教育素材、支援ツールを考えてみるワークも行いたいと思っています。それぞれの子どもの興味や好み、強みに合わせて、どんな素材があれば理解されやすいか、楽しみながら取り組んでもらえるか、そういった点について小グループで考える時間になればと思います。
4.ケースフォーミュレーションを作り、活用するワーク
[下山]その点とも関連して「遊戯療法✖️認知行動療法」を実践するためのワークショップは、どのようなことを目標として研修を進めていただけますでしょうか。オンラインでの研修ということで、難しい面もあるかと思いますが、どうでしょうか。
[小倉]そうですね。使いこなすためには、まずは自分自身で1回やってみることが必要ですね。ワークショップの参加者同士であれば、守られた枠の中で行うことができます。ワークショップでは、そのような実践の第一歩を経験していただくことを目指します。
現在考えているのは、「ケースフォーミュレーションを作ってみる」ワーク、そして、「作成したケースフォーミュレーションを子どもや親御さんと共有する」ワークも行いたいと思っています。子ども本人、そして保護者とケースフォーミュレーションを共有し、問題解決に向けて協働する、つまりコラボレーションできることは、子どものケースでは重要となります。
特に親御さんへの説明の仕方は工夫が必要です。私は、遊戯療法が1回終わるごとにセッションのフィードバックをしているのですが、そうしたフィードバックは、1度ロールプレイとしてやっておくと、感覚を掴めるのではと思います。これは、架空の事例場面を使ってワークをしてみたいと思っています。オンラインのグループワークは、ブレイクアウトルームに分かれて少人数でできるので、楽しみながらじっくり取り組んで頂けるのではないかと思っています。
5.ケースフォーミュレーションで遊戯療法の成果を現実につなぐワーク
[下山]遊戯療法は、プレイルームの中だけで終わるのではなく、プレイを通して得られた変化を現実の生活場面にどのように広げ、定着させていくかまでみていく必要がありますね。つまり、遊戯療法の成果を現実場面の中の行動変化とか関係変化にどうつないでいくかがポイントとなると思います。
そこが、遊戯療法の実践において認知行動療法を活用するポイントだと思います。そのポイントに深く関わってくるのが、保護者ですね。どのように保護者に説明していくか、その際にケースフォーミュレーションが重要になってきますね。それもワークとして考えておられますか。
[小倉]保護者への説明において、認知行動療法、特にケースフォーミュレーションの活用の仕方はワークショップでぜひ学んでいただきたい課題ですね。
[下山]その部分は本当に認知行動療法と遊戯療法を組み合わせることのメリットですね。日本の、従来の遊戯療法では、どのように子どもの自己実現を引き出すのかに焦点を当てる傾向が強かったと思います。しかし、遊戯療法における子どもの変化を保護者にどのように説明するのか、さらには現実場面の中でどのようにつないでいくかといった視点が弱かったように思います。認知行動療法を加えることで、その弱点が補強されます。
6.遊戯療法における「退室渋り」の二つのタイプ
[小倉]そうですね。ただ、遊戯療法の成果を保護者にどのように伝えるかは、どちらかといえば応用編にあたります。今回のワークショップでは、そのような応用編だけでなく、認知行動療法と遊戯療法を組み合わせる場合の、基本的なやり方についてのワークを充実させたいと思っています。
[下山]確かに、初心の心理職からは、「遊戯療法では子どもの退室渋りがあったりして時間の守り方が難しい」といった、基本的なことも学びたいという意見もありました。これは、遊戯療法の「枠」あるいは「構造」の作り方に関わることでしょうか。この点については、どのように考えますか。
[小倉]それは、すごく重要な課題です。実際に遊戯療法を担当すると、必ず「退室渋り」と向き合うことになります。退室渋りは自然に起こるものでもあります。むしろ、退室渋りがないことの方が、心配ではあったりします。そのような「退室渋り」には、2つの大きな場面があります。
一つはそれまで全く退室渋りがなく、自分から帰る支度をし、きちっと時間を守りすぎるぐらいの子が「うーん。もうちょっとやりたいなぁ」とか、何も言わずに時計を見ないフリをして遊び続けていたりする場合です。つまり、その子の中の枠が緩んできた時に、それを扱う場面です。もう一つは、最初から「枠」を守ることがかなり難しい場合です。そもそも枠を守るのがすごく苦手な子どもで、プレイルームだけでなく、他の場面でもそれが課題になっている場合です。
7.「退室渋り」に対応することで子どもを受容する
[小倉]前者と後者では、関わり方が違います。前者の場合は、その子にとって自分の中できつい枠を決めていることで苦しくなっています。その子は、現実世界でもそれが苦しいと感じていると、心理職の側で見立てている時は、それがちょっと緩んできたことは、心理職としては内心大喜びです。
ガッツポーズで、「ああよかったね」と思いながら、「時間になっちゃったねー。でもちょっとだけ、じゃああと1分かなー」などと言って対応します。「こちらはわかっているんだけど」というニュアンスを出しつつ、「しょうがないなぁ」みたいな言葉を伝えつつ、時間を延長する。それが重要だと思います。
それは、その子を“受容”しているメッセージになります。受容していることを伝えることです。「私は、あなたの気持ちを受容しているけど、時間がねえ」というニュアンスを出しながら、ちょっと終わりの時間を伸ばすことは“あり”だと思います。
8.「退室渋り」に対処することで現実世界のルールを学ぶことを進める
[小倉]後者については、「子どものマイルール」と「社会のルール」の違いがテーマとなります。どうしても社会のルールに乗れない子どももいます。そのような子どもの場合は、もちろん子どもの状況や特性によりますが、最初からしっかりと時間の「枠」を伝えておく必要があります。その上で終了の15分ぐらい前から予告を始めます。
「あと15分だね」と伝え、「今日は、残り何をしようか」、「まだ15分あるけど何をする」と、ゆっくりカウントダウンして心の準備をしてもらいます。それでも、はみ出すことも起きてきます。はみ出した時は、「時間になっちゃったね」と、時間を守ることが大切であると思っていることをしっかりと伝えます。
そして、スモールステップで、少しずつ時間を守ることを進めていきます。最初のうちは、「じゃあ、あと1分だよ」などと伝えて対応します。それから、だんだんと回数を重ねて、それでも難しいとなったら、「あと10数えるからね」と言って、セラピストがプレイルームの入り口で待っているといった対応にすることもあります。そのようにしていると少しずつ時間を守れるようになってきますので、そうしたら一緒に喜んで、「次も待っているからね」と伝えます。
それは、「時間を守れないのは、残念ながら受容できないんだ、一緒にがんばっていこうね」ということを伝えることでもあります。それは、子どもの存在は受容しているけれども、その行動は受容できないということを伝えることです。
9.ケースフォーミュレーションに基づいて遊戯療法の「枠」を設定する
[下山]感情の表現だけでなく、現実世界のルールを学ぶことも遊戯療法の重要なテーマですね。現実との兼ね合いを一緒に共有していくわけですよね。
[小倉]そうですね。子どもには、それを伝えることが多いですね。「お部屋から出るのはいやだよね」と。そして、「これをちょっと一緒に頑張ってみようか」と伝えます。
[下山]なるほど。遊戯療法の「枠」をどうするかは、まさに介入とも関わってくるのですね。しかも、そこには時間と空間の「枠」があることになりますね。プレイルームという「空間」に出て入る「時間」という枠ですね。しかも、その子にとって、そのような「枠」を守ることがどのような意味があるのかを見立てる必要がある。その“見立て”になるのが、ケースフォーミュレーションですね。
その子にとっての「枠」の意味を見立てるケースフォーミュレーションがあって初めて、その介入の方針が決まってくるわけですね。まさに現実場面とプレイルームの間をどのようにつなぐのかが、ここでもテーマになるわけですね。
[小倉]やはり現実のことを思い描きながら、退出渋りをしている子をじっと観察し、どう関わるのかを判断することになります。
10.ケースフォーミュレーションによって子どもの暴力の意味を探る
[下山]遊戯療法の「枠」とも関連して、基本的な約束事として、「暴力的、破壊的な行為はしない」というルールも共有しますね。しかし、遊ぶ中で、子どもが激しい行動をしたくなることもあると思います。これには、どのように対応したら良いでしょうか。
[小倉]やはりこれもケースフォーミュレーションに基づいて、どう対応するのかを決めることになります。私自身、手が出てしまう子どもに多く出会ってきました。思わず衝動的になる子もいますし、力の加減が難しくてちょっとくすぐりたいとか、ちょっと驚かしたいとかというときに力が強すぎてしまう子もいます。そのほかに、愛着が心配な子どももいます。執拗な嫌がらせとか暴力を繰り返す子どももいます。
そのような場合は、機能分析を用いてその暴力が、何を刺激として生じる反応で、どのような機能を持っているのかのアセスメントをする。そのような暴力があるとき、私の反応を変えることで、その機能を見極めることもできます。愛着と関わっていると推測できる場合には、そこにある深い意味を探っていくことも必要となります。私に対して、どこまでやっても許してくれるのか、どうしたら許してくれるのかといったことを試しているということもあるからです。
11.ケースフォーミュレーションによって子どもの「試し行為」に対処する
[小倉]「試し行為」として、私の限界を見ている子は結構います。そのような場合は、愛着と絡んでいることがわかるので、「一緒に遊んでいて楽しいし、いつも来てくれてとっても嬉しいけど、でも剣で刺されちゃうとちょっと痛くて悲しい気持ちになっちゃうなぁ」というようなことを表現します。
それは、「あなたの存在は大事に思っているけれど、その行動は受け入れられないんだ」と伝えることになります。そのような場合、遊ばないなどの対応をとり、その子の存在を否定している態度に出ると、愛着の傷が深くなってしまいます。
しかし、「試し行為」自体をどこまでやっても大丈夫なセラピストになるわけにもいきません。「ここまでが私の限界なんだよ」と伝える必要もあります。「あなたを大事に思っている気持ちはあるけど、これはよくないんだよね」ということをどのように伝えるのかは、日々とても頭を悩ませています。
[下山]とても具体的なお話を聞かせていただき、ありがとうございます。このような遊戯療法の基本となる「枠」の設定や「制限」の伝え方についてもワークショップでその方法を体験させていただけると良いかなと思いました。改めて、遊戯療法と認知行動療法を組み合わせることで、新しい地平が、新しい可能性が出てくることを実感できました。ワークショップをとても楽しみにしています。
■記事制作 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(公認心理師&臨床心理士)
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