『あなたとなら食べてもいい』読んでみた【2025年初読書感想文】🍽️
2025年初読書。
2025年初というか、実はずいぶん久しぶりの読書だ😅
『あなたとなら食べてもいいー食のある7つの風景ー』。
7人の作家による、「食べる」ことをテーマにした短編集。
まずタイトルにめっちゃ惹かれた。
“あなたとならどうなってもいい”
“あなたとなら死んでもいい”
的な、どことなく艶っぽいニュアンスが含まれているように感じられる。
食べることが大好きな自分。これは読まないわけにはいかないだろうと、さっそくポチって読んでみた。
食をテーマにしていると一口にいっても、作品のジャンルやテイストは作家によって全く異なっていて、結果どれも読み応え十分だった。
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千早茜 『くろい豆』
ざっくりあらすじ。
30代後半の尚子は、カメラマンで一回り年上の恋人・誠一(初登場だけ誠一郎と書かれているが、以後すべて誠一のため誠一と表記)と同棲生活を送っている。
誠一には別居状態の妻と子供がいるので結婚はできないが、日々の生活はそれなりに穏やかだ。
毎年誠一の故郷から送られてくる、収穫したての枝付き黒枝豆。
二人が付き合うきっかけは、この黒枝豆だった。
茹でたての黒枝豆とコロッケをつまみに恋人とビールで晩酌する、小さな幸福。
でもその小さな幸福は、誠一の行動から感じ取れる他の若い女の存在によって陰りを見せ始めた。
誠一を尾行し、問い詰めた先に待っていた意外な結末とはー。
尚子は別に不幸せではない。
長年の恋人と日々の暮らしを共にする安心感。
たとえ体の繋がりが減っても、心が繋がっている自負はある。
でも結婚して子供もいる姉のような”現実感のある”人物と対峙すると、その安心感や自負は、たちまちゆらゆらふわふわ、行き先のわからない大海原を漂い始めてしまう。
大きな事件は起きないのに、小さな幸福が続くこと、または終わることへの焦燥感や不安など、心のゆらぎがずっしりと詰まった作品。
千早さんの『男ともだち』も同時に買ったので、そのうち読もう。
なんかこれもかなりずっしりきそうで、読むのちょっとこわいなあ💦
遠藤彩見『消えもの』
ざっくりあらすじ。
中年の無名脇役俳優・左右田始(そうだはじめ)。
ホテルのコンシェルジュ役のため訪れた、撮影現場である高級ホテルのスイートルーム。
タイトな撮影スケジュールの中、ドラマの主人公クルミが劇中で食べるはずの”消えもの”のエクレアが忽然と消えてしまう。
セリフが急に増えてイライラしている、主人公の兄役の俳優がなんだか怪しいが、エクレアを消した真犯人は果たして・・・!?
左右田始の冷静な推理が光る、食のミステリー劇場!
脚本家さんの作品なだけあって、ドラマ撮影現場の描写やセリフの差し替え事情などにリアリティを感じる。
ホテルのスイートルームという、ある種の密室で繰り広げられるシチュエーション・ミステリーがとにかく面白くて、どんどんページをめくってしまった。
あと無性に細くて高そうなエクレア食べたくなった!
左右田始さんの単行本も出ているようなので、テレ東深夜のドラマ枠でぜひ映像化してもらいたい。
田中兆子『居酒屋むじな』
ざっくりあらすじ。
”おれたち”が集う店・居酒屋『むじな』。
むじなは運河のほとりにある、古ぼけた木造2階建ての小さな建物。
運河の対岸には高層マンションやオフィスビルが立ち並ぶ風景が見える。
たそがれどきに赤提灯が灯り縄のれんが出ると、それぞれの場所から、それぞれの人間関係・それぞれの事情を抱えた”おれたち”がひとりで店を訪れる。
店には60代ぐらいの愛想のよいおかみさんと、無口で風変わりな、おかみさんの実の弟がいる。
おかみさんによって明らかにされる弟の半生と、”おれたち”の物語。
むじなを実際に見たことも訪れたことも、彼らに会ったこともないのに、私はむじなを知っていると思った。おかみさんを知っているし、弟を知っているし、”おれたち”を知っている。
なぜだろう。
ああそうかと思いついた。
日曜日のお昼にやっているドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』やNHKの『ドキュメント72時間』。
この作品は、定点観測で淡々と彼らの現状と店の様子を眺める、あれに通じるものを感じるのだ。
店はぼろぼろだし、弟の作る料理の数々は決しておいしそうとは言えなさそうだが、どんな境遇であれ結局はひとりぼっちな”おれたち”は、雨の日も風の日も、ただなんとなくむじなに集う。
「だめでいい場所」なんだろうな、むじなは。
弟も客も、誰もかれもがだめでいい場所。
だめはある意味誘惑的で、魅力的だ。
ラストも、そういうこと。
あと4作あるが、長くなり過ぎるので感想だけ。。(急だな)
神田茜『サクラ』
売れないアラフォータレント・イズミの鬱屈して色褪せた、地味な毎日。
雑誌のダイエット企画で出会った年下の男性整体師に誘われるまま、毎朝ウォーキングをしながら毒を吐いて吐いて吐きまくって、次第に心身の健康を取り戻す。
途中ストレスからくるドカ食いのシーン。
パスタを一袋茹でて、半分はミートソース缶、半分はネギアンチョビバター醤油で海苔をたっぷりって。
うまそう過ぎかよ!そんなに食べられないけどね。
ラスト。
現実はもっと厳しそうだけど、こういう話も悪くない。
大人のファンタジーという感じで、いい読後感だ。
深沢潮『アドバンテージ フォー』
作品冒頭のページを読んでいて、なんか妙なリアルを感じてムズムズする。
主人公朱里(あかり)は池尻大橋の改札を出る。目の前は高速道路の高架下。三軒茶屋方面の店を目指して歩いている。
私はその冒頭のページを、たまたま三軒茶屋のブルーボトルコーヒーの店内で読んでいたので、さっきまで歩いていた三軒茶屋駅前の高架の風景がオーバーラップして、うわあーなんか急にリアル!となったのだった。
こちらにその様子が書いてあります↓
大学時代のサークル仲間の、マウント地獄の女子会のお話。
こわいこわい😂
こういう人たちの集まりは苦手で、ずっと意識的に避けてきていたかもしれない。
でもやっぱり多かれ少なかれ、この手の話にはなっちゃうよね。
ある意味ホラーよりこわい作品。
柚木麻子『ほねのおかし』
これもヘビー級に重たくて刺さる作品。
タイトルのほねのおかし=カルボーンは軽いお菓子だというのに。
バブル期に丘を切り崩して建設された、郊外のマンション。
かつてその場所に存在していた、二つの幸せな仲良し家族。
時が過ぎ残ったのは、老朽化してゴースト化しつつあるマンション。
かつて幸せな家族の子供だった主人公なおは、現在そのマンションに一人で暮らしていて、仲良しだったもう一つの家族の子供・佳織と20年ぶりに奇妙な再会をする。
生と、性と、死。
人間って、家族って、幸せって何なんだろうなあと考え込んでしまう。
幸せの象徴だと思っていたものも、執着して無理やり持ち続けていたら、ある日呪物に変化してしまうのかな。
オールマイティーなカードのジョーカーは、最後まで持ってたら上がれないパターンか。
手放す勇気。難しいね。
主人公たちの家の本棚に寺村輝夫さんの『こまったさん』『わかったさん』シリーズの児童文学が揃っているという描写が、自分と重なってしまい、また泣ける。
これって短編でしたっけ??と疑いたくなるような濃厚な読後感。
町田そのこ『フレッシュガム』
これはごく短い作品。『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』という作品の番外編とのこと。
作品に登場する、”黄色のパッケージの甘いガム(復刻版)”。
たぶんあのガムのことだなと想像できる。
あの甘ったるい味の、あれ。
ガムを引っ張ろうとするとパチって指を挟まれちゃうおもちゃのデザインにも使用されていた気がする、あれ。
しあわせの匂いと表現されているけど、なんかわかる気がするな。
これでしょ?
終わったー。
たぶん、私と同年代の作家さんも多くて、本のボリューム以上に突き刺さってくるものがあった。
お腹いっぱい食べました、おすすめです。