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「勇気」について語っている本。『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』

ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』(千葉雅也山内朋樹読書猿、瀬下翔太/星海社新書

コインランドリーで洗濯しながら読みました。
めちゃくちゃ面白くて、ぼくには珍しく付箋だらけになってしまった。「書けない」について、こんなに寄ってたかって白状している本は珍しい。


ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論

版元の紹介文を引用します。

書くのが苦しい4人と一緒に「書けない」悩みを哲学しよう!
「書き出しが決まらない」「キーボードに向き合う気力さえ湧いてこない」「何を書いてもダメな文章な気がする」……何かを書きたいと思いつめるがゆえの深刻な悩みが、あなたにもあるのではないでしょうか?
本書は「書く」ことを一生の仕事としながらも、しかしあなたと同じく「書けない」悩みを抱えた4人が、新たな執筆術を模索する軌跡を記録しています。どうすれば楽に書けるか、どうしたら最後まで書き終えられるか、具体的な執筆方法から書くことの本質までを縦横無尽に探求し、時に励まし合い、4人は「書けない病」を克服する手がかりを見つけ出します。
さあ、あなたも書けない苦しみを4人と哲学し、分かち合い、新たなライティングの地平へと一緒に駆け出していきましょう!
星海社Webサイトより

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正にそんな内容の本でした。

地方の中小企業に務めつつ、「書かなきゃとは思ってるんだけど、書けない」と思い続けている全ての人に超おすすめです。

「書かないで書く」
「諦めを知る。断念が大事」
「もっともっとの幼児性を自覚する」など
だよね!の感覚に溢れています。


付箋を貼った箇所を引用

自分の場合、根底にあるのは「もっともっと」と要求する「幼児性」ですね。(略)だからいつまでも移行対象をいじり続けようとしてしまう。(山内)

「普段ものを考えて生きている」ってどういうことかというと、具体性と抽象性を常に行ったり来たりできているってことなんです。(略)それをやっていない人は、まず抽象的なメタレベルの思考をやっていない。具体的な経験すら言語化されていない。(千葉)

ツールが思考に対してどんな影響を与えたかという話について、(略)「思考しないで思考する」ことに使えているのかなと。アウトライナー上で作業していることが、かなりの部分、全部ではないですが思考の肩代わりをしてくれてる。(読書猿)

平安時代の『作庭記』という作庭指南書があるんですが、そこにはまずいろんな石を集めてきて並べてみろとある。Inboxのように。で、そこからいい感じのをひとつ立ててみろと。つまりはプロジェクト化する。するとその最初の石が次の石を乞うんだと、ある種の自動生成を導く手立てを書いています。(山内)

最初に石を置いたら、もう取り返しがつかないから。取り返しのつかなさから始まっていって、できないことが増えていくんですよね。そうやってできないことが積み重なっていった結果、残った道筋が見えてくる。(読書猿)

庭では、最初に置いた石がどうしても気になってしまう場合は、それを取ってしまえと言うんですよ。初手を省くと、結果として自動生成された取り返しのつかなさの連鎖それ自体が残る。(山内)

ツイッターにはなぜあんなにアイデアを書けるのか。ひとつは140字という字数制限が大きいと思っていましたが、オーディエンスがいることの効用についてはいまひとつ結論が出せていなかったんです。でも、取り返しのつかなさだなといま思いました。(千葉)

手に負えない課題を前にすると、せっかく爪に火を点して溜めたなけなしのモチベーションが途端に蒸発する。結果、書くことに取り掛かること自体が先延ばしされる。また書くことを回避することで、苦手意識はいよいよ増悪していく。「書けない」は単なる無能力というより、そうした苦手意識と先延ばしの悪循環に囚われの身になることを言うのだ。(読書猿)

書くことが何もない状態は、締め切り前日の追い詰められた状況でなければ、最悪のものではない。空っぽのバケツはまだ水を汲める。最悪なのは、非常ベルに駆られた群衆が狭い出口に向けて一斉に押しかけるように、書きたいことと書くべきことのすべてが書き言葉になることを求めて、小さなワーキングメモリに殺到し、コンフリクトを起こすことだ。(略)袋小路を抜ける、一見無茶だが結果的に最速の方法は、これまで書いた言葉を一旦すべて捨てることだ。(略)味も素っ気もほとんど消えてしまうが、残ったものこそ、それでもなお自分が書かなくてはならない何かである。(読書猿)

「ねえ、君考えてみたまえ。本当の考えとは、決して変わらなかった考えではなく、繰り返し戻ってきた考えをいうのだ」ドニ・ディドロ(読書猿)

ヒトとしての成熟が、「自分はきっと何者かになれるはず」と無根拠に信じていなければやってられない思春期を抜け出し、「自分は確かに何者にもなれないのだ」という事実を受け入れるところから始まるように(地に足のついた努力はここから始まる)、書き手として立つことは「自分はいつかすばらしい何かを書く(書ける)はず」という妄執から覚め、「これはまったく満足のいくものではないが、私は今ここでこの文章を最後まで書くのだ」と引き受けるところから始まる。(読書猿)

蓮實節も保坂節も感染力が強いので、真似すると毒されるという心配の声を聞くが、気にしない方がいい。そっくりにはならない。最初は真似っぽさが目についても、だんだん自分の身体的傾向と融合して新しい文体が生じる。人間は必ず個性的なのであって、何を真似しても当人のスタイルに変形される。(千葉)

外部化されてない思考は堂々巡りを繰り返す。思考は外部化のプロセスではじめて線形化し、繰り上がる。書けない、つくれないのに、なにはともあれまずは書け、まずはつくれと言うのか。そんなバカな。できない。でも混沌さんに目鼻をつけるには、まずその大事に抱えている欲望 – 幻想的次元を外に引きずり出してみせることが必要だということだ。(山内)

パワポを使うときは、川喜田二郎『発想法』に書かれたKJ法が参考になる。KJ法は彼の思想が色濃く反映された複雑で緻密なメソッドだが、なかでも机に並べた紙切れの「メモ」を整理する「グループ編成」と呼ばれる作業だけは知っておくべきだ。川喜田はグループ編成において「大分けから小分けにもっていくのはまったく邪道である」と強く注意喚起している。(瀬下)

「殻を破る」というのはよくある言い方だが、それがまさに今回の試みだなあ、と思う。つまらない「殻」を自分で作り出している。それを破って、外に出るというのはどういうことか。それは、安全地帯でぬくぬくとしていたいというのを諦め、危険に満ちた外気に肌をさらすということだ。自分はこう書く、こう書いてしまったという結果に肯定否定どういう反応が起きるにせよ、堂々としていよう、ということである。勇気である。結局、周りに受け入れられるためにちゃんと書かねばというのは、「何事も起きなければいいのに」という防衛的なマインドなのであって、それは「外にでていない」のだ。出来事が起きるかもしれない。それでいいのだ。勇気を持って出来事へ踏み出して書くのである。書くことを出来事にする。道行きが不明なまま、書き始め、書き続ける。偶然性に身を開いて書くのである。賭けとして書く。「賭く」のである。(千葉)


「書くこと」がもつ妄想からの離脱

『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』は書くことに慣れていない方、書くメカニズムに思いを馳せたことがない方、ロジックばかりで実践をしない方、コンテンツ作成が重要な業務になったとなかなか思えない経営陣は必読じゃないでしょうか。

「書くこと」がもつ神聖さ、完璧さ、正しさ、規律性がほぼ根拠のない妄想であることがよく分かると思います。そして、その妄想は「書かない人」により強い。つまりは実際には書かない上司や経営者ですね。その妄想はWeb活用の際に大きなボトルネックになります。

それらの妄想はWeb活用において本当に邪魔です。まず書く。怖くても書く。最後まで書く。自分の不完全さを認める。諦めを知る。今はここまでしかできないと決める。断念する。完璧なものを書こうと思わない。メモと原稿を区分しない。メモのように書く。とにかく書く。言葉を発するように書く。

もちろん、それには「勇気」が必要です。まずは檻の外に出る。最後まで書く。 自作の檻に閉じこもっているのは安心・安全だけど、何も起こらない。どんなことであれ、自分で外に出なければ何も起こらないし、自分で外に出るためには、自分で勇気を構築しなくてはいけない。部下に命じる上司は特に。


この本は「書けない」ことをテーマに、結論的には「勇気」を扱っている。と書いたら、「なんじゃそりゃ!21世紀に勇気かよ!書き方指南じゃないのかよ!」とツッコミが入りそうですが、ぼくはそう読みました。どんなことであれ、自分のことは自分で始めなくてはいけないし、何かを始めるにはやっぱり勇気が大切です。最初はほんのひとつまみでも。

個人的には読書猿さんの下記一文をこの先何回も思い出すだろうと思いました。

書き手として立つことは「自分はいつかすばらしい何かを書く(書ける)はず」という妄執から覚め、「これはまったく満足のいくものではないが、私は今ここでこの文章を最後まで書くのだ」と引き受けるところから始まる。(読書猿)

自分の不完全さを認める「諦めと断念」が勇気の背中を少しだけ押してくれるはず。ぼくはこの本をそう読みました。

『ライティングの哲学』はWeb活用しなくては…と思っている地方企業は必読だと思います。「自分のできなさ」を認めるところから始めるのがWeb活用においては超重要なので。ぜひご一読ください。


蛇足1:ハラヒロシさんに読んでほしい

個人的には、年360本のブログを10年書き続けたデザインスタジオ・エル代表のハラヒロシさんにぜひ読んでほしいと思いました。
ハラさんの10年はこの本に描かれた試行錯誤とかなり重なりそうだなあ…と勝手に夢想しました。ハラさんがどう読むか、個人的に興味深いです。


蛇足2:コインランドリーで読むと妙にしっくりくる

それにしても、この本はコインランドリーで読むのにとっても相応しかった。何でだろう。説明できないのですが、ベスト・オブ・コインランドリー本でした。面白かったです。

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地方の中小企業で「書けない」人のために

既に書ける人の「書けない」はまだいいのですが、「書けない人」の「書けない」は地方中小企業のWeb活用において大きな課題だと日々実感しています。
note『書けない地方中小企業のための「10の社内ルール」』を以前書きましたので、思い当たる方は良かったらご覧ください。


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稲田英資について

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